夢のカケラ

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夢のカケラ

『必ず迎えに行くから待ってて』 こんなセリフを残して消えたカオナシさん… 確か僕が小学2年の夏。母の実家の近くの森で迷子になった。 暗くなって、オオカミみたいな遠吠えが聞こえて。 怖くて泣き声さえ出せなかった。 だって大声で泣いたら、僕が弱いってバレたら。 見つかっちゃうだろ? だからポロポロ涙をこぼすだけで我慢したんだ。 大きな木の下に丸まって膝を抱えてさ。 そしたら背にした木が話しかけてきたんだ。 何て言ったかなんてわかんない。 でも温かくて、眠くなっちゃって。 ポカポカのまま目を覚ますと、後ろから抱っこされてる事に気づく。 「お兄ちゃん、誰?」 『僕はね、樹(いつき)』 「き?」 寝ぼけてたんだ、ちゃんと聞いてなかった。 『ふふ…そうだよ。“き“でいいよ』 「きお兄ちゃん、僕を助けてくれたんだね?」 『うん、僕の足元で凍えていたからさ』 「きお兄ちゃん、ありがと。大好き」 『君、名前は?』 「そら」 『えっ?』 「そらだよ、きお兄ちゃん」 『そらくんか、僕もそらくんが大好きだ』 「じゃあ、きお兄ちゃんと僕は結婚できるね。マミ先生が言ってた。好き同士は結婚できるんだって」 『ふふ、そうだね』 「やった!」 『必ず迎えに行くから待ってて』 そこで俺の記憶は途絶えた。 気が付くと実家の庭で、昼寝してただけだった。
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