夢の匂い

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夢の匂い

あの時は変な夢だったと忘れてた。 なのに、この数ヶ月毎夜この夢を見る。 でも彼の顔だけが、モヤがかかったように思い出せない。 なのにあの森の匂いとあの木の温かさ、それだけが俺の心を掴んで離さない。 「いつ…きお兄ちゃん…」 『ん?誰か呼んだ?』 いっけね、社食でいつの間にか声に出てた。 背の高いスーツの男性がキョロキョロと辺りを見回す。 俺は俯き、知らないふりをして席を立った。 『ね、君が呼んだ?きお兄ちゃんって…』 「い、いえ。知りません、失礼します」 俺の呟きに返事した? ビビった〜 それにしても聞かれてた上にたまたま呼び名が一緒だったのか? どこの課の人だろ…背が高くて男の俺から見てもイケメンだったな。 自社ビルで人数多すぎて、知らない人が多いから。 もう会うこともないだろうな。 その夜も夢を見た。 『そら、やっと見つけた』 カオナシのきお兄ちゃんは確かにそう言った。 恋人もいない俺は昼食は大体、社食で済ませる。 今日はカツカレーか、混んでるな。 『ねぇ、君…昼食ご一緒してもいいかな?』 そう俺に声をかけたのは昨日のスーツイケメンだった。 「いや、今日は混んでるんでやめときます」 『外に出よう』 強引な人だな、でも社内の人間には違いないからまぁ…いいか。 「いいですよ」 『良かった、奢るよ』
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