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『__続いてのニュースです。本日未明、○○県××市在住の二十代男性が、自宅のダイニングにて遺体で発見されました。捜査関係者の情報によりますと、男性の遺体には目立った外傷はないものの、近くに落ちていたシュ__』
「へえ、世の中物騒だな」なんて、他人事のような感想が出る。出勤前、世間の様子を知れる僅かな時間を終わらせるためにテレビの電源を切れば、アナウンサーの声は不自然に途切れてしまった。
そろそろ家を出なければいけない。玄関へ向かう途中、いつものように自然とある物に目を向けてしまう。その中に写っている彼女は、今日も綺麗に笑っていた。何年も変わらないその様子は、肺の中に小石を詰め込むように重く圧しかかってくる。今でもまだ信じられない。いや、信じたくない。変わらない日常だったはずなのに、一体どうしてこんなことになったのか。疑問ばかりが心に浮かんでは、また沈む。
……きっと、何かの間違いだ。そう思い込むことで現実から逃げていることは、誰かに言われなくても分かる。それでも、認めたくなかった。
認めてしまったら、無理矢理でも生きている今を、自分で否定してしまう気がしたから。
「いってきます」
返ってこない言葉を、ずっと期待している。
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