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盗賊ネズミ
母と兄達が突然連れていかれてから三日が経ちました。シャーリーにとってそれはとても長い長い年月に感じられ、しかし家族と過ごしていた日々はつい先程のように感じていました。
シャーリーはまたあの生き物が出てくるのではと恐ろしくて出ることが出来ません。餌と水が入ったお皿は扉の近くにあり、どんなにお腹が空いていてもとても食べに行こうとは思えなかったのです。
ただ、じっと動かずに扉の方を見ていました。
すると突然、天井からするりと落ちてきた一本の糸。辿るように見上げるとそれはシャンデリアにくくりつけられていて飾りが音をたてます。
「よいっしょ、と」
微かな声をシャーリーの垂れ曲がった耳が拾います。
声の主がなんなのか、様子を窺うことにしました。
刺繍糸を腰に巻き付けて垂れ下がった糸を支えに上下逆さに降りてくる小さな生き物。細く長い尾は身体を支える糸に巻きつけ背中には亀の甲羅のような半円の針刺しを背負っています。針刺しには丸い玉飾りのついたまち針がついていて、胸元には安全ピンを改造した弓を携えています。
なんとも不思議な格好をしたネズミでした。
興味をそそられシャーリーはそれにゆっくりと近づきました。
小さな身体からは嗅いだことの無い匂いがします。つんとした刺激臭を隠すように甘ったるい花のような果実のようなアルコールの臭い。
絨毯に下りたそれはシャーリーの餌を片手で口に運び、モグモグと頬張ると腰のベルトに引っ掻けていた小さなミルク差しに掬い入れました。
シャーリーが鼻先をひくつかせ臭いを嗅いでいるとネズミは頭を傾げながら「こんなもんかな」と振り返り、目の前に大きな瞳があることに気づくと大きな悲鳴を上げました。
「「きゃあぁぁぁ~?!」」
その声に驚いてシャーリーも声を上げます。
二匹の間にミルク差しが宙を舞い、詰められていた餌を撒き散らしながそれはカラカラと絨毯の上に転がりました。
「クソッ、宝石猫がまだいたのか!」
我に帰った彼は慌てた様子でベルトに刺していた針を抜くとシャーリーの鼻先へ突きつけます。
「オレの名はアルビン!
アルビン・ナイトオブシックスリバー!一夜のうちに六つの川を駆ける盗賊鼠アルビン様に怖いものは何もない!さあ、やれるもんならやってみろ!」
長い尻尾がピンと立ち、全身の毛を逆立ててアルビンは叫びます。が、シャーリーは宙にぶら下がったまま揺れる糸が気になり両手でそれを掴みました。
「いぃやぁぁぁっ?!」
急に体を引き上げられ悲鳴を上げたアルビンはぶらぶらと身体を揺らしながら必死で針を振り回します。
あまりに勢いよく振り回すものですから細い指から滑り落ちてしまいました。
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