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脱出
叫び疲れたアルビンに顔を近づけるとアルビンは手足をバタつかせながら慌てて言います。
「なんだ宝石猫、ネズミなんか食っても腹壊すだけだぞ!自分で言うのもなんだがオレは下水で汚れてる!」
シャーリーは首をかしげながら答えます。
「食べ物は喋ったり動いたりしないわ。
それに宝石猫って母のことでしょう?
母は…」
悲しげにシャーリーが「いないの」と呟くとだらりと下がった長い尾で糸を手繰り寄せアルビンは器用に宙に寝そべって頬杖をつきます。
「お前はメスだろ。だから宝石猫って呼ばれてるんだ。猫はオレらネズミと違って希少だからな。」
特に。 とアルビンはシャーリーを指差して続けます。
「どんな宝石よりも価値がある動物、猫。
それを生むお前は命あるかぎり宝を生む金山なんだよ。」
「金?」
「お宝ってこと。」
「じゃあっ!」
シャーリーはふと思い立って両手を叩きました。放たれた糸はアルビンの重さに耐えきれず勢いよく上へと登り逆にアルビンは絨毯の上に途っ伏してしまいました。
「あなたが私を盗んでくれたらいいわ!」
「はぁっ?!」
「だって!だってあなたは泥棒なのでしょう?出口の無いこの部屋にも簡単に入ってきたんですもの!」
「待て待て」
「それにあなたは物知りで、外の事にも詳しいでしょう?私をお母様や兄たちの所に連れて行って!」
シャーリーの溢れんばかりの涙を見てアルビンはたじろぎました。実のところアルビンは子供と女性の泣き顔には弱いのです。
シャーリーの半分程しかない小さな身体を大きく膨らませるとアルビンはため息をつきました。
「...分かったよ…」
シャーリーは嬉しさのあまりにアルビンに抱きつきました。家族に会える喜びに綿雪のような身体が小さなアルビンを包みます。
何度お礼を言ったのか、胸元で苦しそうにアルビンが分かったから放してくれと懇願しました。
「でもその前にやることがあるからな。」
「...やること?」
シャーリーの腕から解放されたアルビンは頷いて、散らばってしまった餌を拾います。
「そうだ。老婆に食わせてやらなきゃいけないんだ。」
「老婆?」
アルビンは拾い集めた餌をミルク差しに戻すと背中の針刺しからまち針を一本抜き出し、天井から落ちてしまっていた刺繍糸をくくりつけました。安全ピンの弓でシャンデリアに狙いを定めます。勢いよく放たれた矢は見事飾りに絡まりアルビンはするすると登っていきあっという間に姿が見てなくなってしまいました。
少しして、扉が不気味な音を立てながらゆっくりと開きました。
ひょっこりと顔を出したのはアルビン。
彼はドアノブに掴まりながらニヤリと笑って手招きをしました。
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