ねこのくに

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ねこのくに

運ばれた先は多くの機材が並び殺伐とした部屋。アルビンとシャーリーは人気が無いことを確認すると外へ出ました。 出入り口は二匹が押すと簡単に開く扉。シャーリーはもう動かないヒルデに深くお礼を言うと部屋を出ました。 目の前に広がる大きな広間。 それは猫たちの楽園で多くの猫がいます。 古代エジプトの絵から始まり、たくさんの絵が飾られそこにいる猫の毛の長さも瞳色も様々です。 きらびやかな内装が一画毎に設けられ色々なポーズをした猫がいます。これほどまでに多くの猫をシャーリーは見たことはありません。ただ、一つだけ不思議で仕方無かったのは。 「ねえ、アルビン。どうしてみんな動かないのかしら」 声をかけても、近くに寄ってもそこにいる猫たちは皆じっとこちらを見つめて動かないのです。それに変な臭いもします。アルビンとは違う薬の臭い。先程ヒルデと運ばれた部屋の匂いです。 「みんな、もう寝てしまっているからだよ」 「目を開けたまま寝てるなんて変よ。それにお腹が膨らまないよ」 アルビンはなぜ猫が希少なのか、宝石よりも価値があるのか順に巡りながら話しました。 昔、人間と猫はとてもよい関係にありました。人間は猫を可愛がり、猫も人間が好きでした。けれど、猫を可愛がるあまり数が減ってしまったのだそうです。 野良猫を無くし、去勢手術をすることで生まれる猫は減り、医療の進化で寿命は伸びましたが人間好みの種ばかりが残されました。可愛い姿は本来の猫のそれとは違うものになっていたのです。 「もう、外に猫はいないんだ。」 シャーリーは外に出たことがありません。 だから窓の外には大きな猫がいて毛繕いしていると思いましたし、悪夢のように家族が消えた事で人間が恐ろしいものだとも思っていました。けれど、ヒルデを抱いて悲しむ姿が脳裏から離れません。 人間とは一体優しいのか、恐ろしいのか。 「ここは死んだ猫を飾る猫の墓場なんだよ」 「お母様やお兄ちゃんもここに来るの?」 「いつかはな」 シャーリーはその場に座り込むと体を丸くしました。すごく疲れてお腹が空いています。 ウトウトと瞼も重くなり、シャーリーは目の前の猫をじっと見つめました。 黒い猫は何かを追いかけているようなのです。それは壁の隙間に入ったネズミのようでした。 そうか とシャーリーはアルビンを見つめます。猫はネズミを食べるのです。 だから猫は数を減らし、ネズミの数が多いのでしょう。 「あなたを食べたらきっとお腹を壊すわね」 シャーリーは笑ってアルビンに言いました。 「ねえ、アルビンは外がどれくらい広いのか知ってる?」 「さぁな、一夜に六つの川を駆けても端までは辿り着けない。ずっとずっと広いんだ。」 アルビンはシャーリーが自分を食べるとは思いませんでしたがちょっとだけどぎまぎしながら答えました。 「それじゃあ、盗賊ネズミさん。 今度はここから私を盗んで、もっともっと広いのならどこかに大きな猫がいるかもしれない。もしいないのなら、私が大きな猫になるわ。毛の生え変わる頃には空から抜け毛を落とすし、建物から建物へ飛び移って空を駆けるわ」 楽しそうにシャーリーはそう告げて瞼を閉じました。まるで夢を見ているようです。 シャーリーの夢は鮮やかでたくさんの猫たちが走る緑の茂る草原と青い空。それを縫うように流れる大きな猫の形の雲はどこかシャーリーに似ていて、どこまでも空を駆けていくようでした。
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