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◇
「よし、今日も街には異常なしだね」
「あーあ、何で俺がこんなこと……」
「アンタもうちょっとシャキッとできないの?」
だるそうにしたユージーンはボリボリと頭を掻く。ついでに大きな欠伸も一つ。この不良騎士め。
今日の私達の任務は街の見回りだ。街の安全を守るのも立派な騎士の役目なのだが、この街の治安はそれほど悪くもないので、ぶっちゃけ暇である。
私は街の人と触れ合えてこの任務が結構好きだ。けれど剣を振り回すのが好きなユージーンは、この任務はご不満のようだ。
「まあお偉いさんの護衛よりはマシか……」
「ユージーンすぐ怒らせるもんね」
護衛と聞いて、ゲームでのもう1人の騎士キャラ、マルセル・リベッティを思い出す。ゲームで登場するマルセルは18歳だったから……今は13歳か。
ヒロインの護衛騎士として登場するマルセルは、ヤンデレ担当だ。攻略自体は他のキャラと比べて簡単だが、その後がとてつもなく大変だった気がする……。
同僚がヤンデレ予備軍なんてたまったもんじゃないから、そう思うと同じ騎士でもユージーンで良かったかもしれない。
「——うわっ」
突然腕を後ろに引かれて、思わず声が出る。
振り返ると呆れた顔のユージーンがこちらを見下ろしていた。
「お前なぁ……人に言う前に自分がシャキッとしろ」
「ご、ごめん」
直後に人が目の前を横切る。
考え込むあまり、周りをよく見ずボーッとしてしまったようだ。危うく人とぶつかるところだった。
「ありがと、ユージーン」
「ああ、お礼は5倍返しでいいぞ」
「恩着せがましいな」
体勢を立て直し、2人で並んで歩く。
ふと、あることを思い出す。
「そういえば、ユージーンに渡したいものがあるんだった」
「……渡したいもの?」
不思議そうにユージーンはこちらを見る。
私は騎士服のズボンのポケットを探って……あった!
「はい、コレ」
ポケットから取り出したものをユージーンの手にぎゅっと握らせる。
ユージーンが手を開くと、手のひらの中で青い石のネックレスが陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「……ネックレス?」
「うん。次の遠征って盗賊団の討伐でしょ? 結構厄介な相手だってダックス先輩が言ってたじゃん。だから怪我しないように、お守り」
「怪我しないようにって……、お前も行くんだろ。人の心配してる場合かよ」
「まあ、そうなんだけどさ。折角だし、持っててよ」
腑に落ちないような表情でユージーンはネックレスを見ている。まあそうだろうな、騎士学校時代からの付き合いだけど、今までこんな事したことなかったし。
なぜ急にこんな事をしたかというと、ゲームの方のユージーンの顔に、傷があることを思い出したからだ。
もちろん今の22歳のユージーンの顔に傷はない。
つまり、これから5年以内にユージーンは顔に傷を負う可能性があるのだ。
ゲームではキャラ付けのためのものなんだろうけど、傷は傷だ。それに顔に傷をつけれるほど近い間合いに入ったとなると、相手も相当の手練れだ。
そういうわけで、未来の同僚の安否を心配して、このお守りを送ったわけである。
しかもこのお守りはただの気休めではない!
「その青い石はヴェーダの石でね、幸運値がアップ!」
「幸運値?」
実は、『恋愛王国〜世界を越えた愛〜』内にはアイテム要素があった。
例えば賢者の眼鏡を使うと1番好感度が上がる選択肢がわかるとか、そういうやつだ。
ヴェーダの石は幸運値を上げるアイテムである。具体的な効果は目当ての攻略対象と出会いやすくなる、ランダムでもらえる攻略対象からのプレゼントが良いものになる……などなど。
現実の世界で効くのかはちょっと自信がないけど、持ってて損は無い!……はずだ!!
「まあ、幸運値?とかはよく分からんが貰っておく。ありがとな」
「うん。次の遠征にはちゃんと忘れずつけといてよね! お守りの意味なくなっちゃう」
「ああ、忘れない忘れない。………たぶん」
「ちょっと!」
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