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◇
「——動きの説明は以上だ。では各自持ち場にかかれ!」
騎士団長のその言葉を合図に、その場にいた全員が動き出す。
時が経つのはあっという間で、今日は遠征の日。
今回のターゲットは盗賊団。それも向こうには数人の手練れもいるという情報だ。気を引き締めないと。
私とユージーンの所属する班の役割は盗賊団のアジトの制圧なのだ。この任務の要ともいえる。
「ジュリ」
持ち場に行こうとした時、ユージーンに呼び止められた。
「どうしたのユージーン」
「手、出せ」
「手?」
言われた通りに手の平を出す。その上にポトリと、何かが落とされた。……ヴェーダの石のネックレスだ。
私のあげたものじゃない。だって石の大きさが倍くらいある。
「これ、持っとけ」
「なん、えっ? ど、どういうこと?」
「お守りだよ、お前の」
驚いて戸惑う私に、イタズラが成功した時のようにユージーンはニカッと笑う。
「お、お守りって……」
「……何だよ。気に入らなかったか?」
茶化した声に少しだけ寂しさが滲んでいたのを私は聞き逃さなかった。慌てて首をブンブンと横に振る。
「そんなことない! 気に入った! すごく! すごく!」
実際、ユージーンがくれたネックレスは、石の周りに上品な金細工が施されていて、とても可愛かった。
必死な私の訴えに、ユージーンは何故か吹き出した。
「わかったわかった、そんな首振ると千切れるぞ」
「ありがと! ありがとねユージーン! 大切にする!」
まだ笑い足りないのか、ニヤニヤとこちらを見下ろすユージーンの首に金のチェーンが見えた。
私があげたネックレスと同じ色だ。思わず私もニヤニヤと笑ってしまう。
すると後ろから声がかかる。
「お前達! イチャイチャしてないでさっさと持ち場につけよ!」
「ダックス先輩ー、羨ましいからって邪魔しないでくださいよ」
「……ユージーンはこんなところに来てまで始末書を書きたいようだな」
「ユージーン・ミルズ、今すぐ持ち場に向かいます!」
ユージーンの切り替えの早さに、思わず私は吹き出してしまった。
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