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一通り話し終わったあと、少女はまたひとつこくりと頷き、慣れた手つきでティースプーンを使い混ぜ始めた。
コロン、コロン
店内に、スプーンで混ぜる音が木霊する。
ピタリと音が止み、少女はカップを持ち上げこくりと1口飲む。
また1口、1口、こくこくと飲み続け、あっという間にその中身はなくなってしまった。
空っぽになり、ことりとカップを置いた時少女は初めて顔を上げた。
その顔は、紅と瓜二つだった。
目を見開いた。これは夢なのだろうか。
だが、確かにコップを持った感覚はある。では目の前の少女は一体。
「ありがとう、紅。」
始めて聞いた声は、紅の声とそっくりで鈴のような澄んだ声だ。
そうか、目の前にいる少女は
「あなたは、私?」
少女はまたひとつ、こくりと頷いた。
そして笑ってこう言った。
「寒かったから、これが飲みたくなったの。またね、紅。」
そう言い残して、泡のように消えてしまった。
跡形もなく、ミルクティーに溶けたマシュマロのように。
冬の雪が見せた夢なのか、そう思い恐る恐る紅はカップに手を伸ばす。しかしそこにあったのは何の変哲もないただのカップだ。
つまりこれは夢ではなかったのだ。
では、少女は一体なんだったのだろうか。
ただ1つわかることは、これもひとつの縁の形だと言うことだ。
雪が届けてくれた、儚い泡沫の縁。
アルヴィン伯爵は変わらず椅子の上で眠り続けている。
ご主人は驚いているというのに呑気なものだ。
外では、マシュマロのような雪が降り積もっていた。
────────
「昼間は驚いたよ、アルヴィン伯爵。あれは一体なんだのだろうね。」
紅はマグカップ片手に、膝の上に乗る黒猫を撫でていた。
「よくよく考えれば、あの子は私とそっくりだったよね。私も子供の頃はよく俯きながら頷いて口数が少なかったって言われたよ。それに、寒い日はこれをよく作って貰ったね。」
マシュマロを慣れた手つきで溶かしながら、紅は手記にこう書いた。
『ホットマシュマロミルクティーと冬の出会い』
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