1961人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「あれ、お知り合いですか?」
シュウが問いかける。
何で、ここに此奴がいるんだ。此奴に遭遇する度_といってもまだ2回目だけど_そう思っている気がする。
「…客だよ」
問いかけに答えた。
今日の麻倉は青みがかった黒のスーツ。どうやら今日も仕事をしていたらしい。
「こんにちは!かっこいいお客さんだなあ」
愛想良く悠が話しかける。
確かに今みると綺麗な二重の目、鼻筋の通った鼻、小さすぎず大きすぎない唇、それらがバランスよく納まった端正な顔立ちだ。そんな事考えたことはなかったが確かに整ってるな、なんて今更思う。
「…お前、仕事中じゃないのか?」
「まあ、仕事でちょっと外回りしててさ」
大変だななんて他人事のように思う、いや他人事だけど。
はっと思い出したようにまた口を開いた。
「そいえば今日、ハジメさんに指名入れたんだ、楽しみにしてる」
忙しいなら風俗に来る前にさっさと寝ればいいのに。
なんて(シュウと悠の前だから)言えるはずはなく、そうなのかと適当に返事をした。
「じゃあ俺、そろそろ仕事戻らないとだから」
「じゃあね、かっこいいお客さん!」
俺が相槌を打つ前に悠が飛び出すように言って手を振る。シュウも笑みも浮かべて軽く会釈した、一方で俺は特に何もせず早く行けよと思うばかりだ。
「…そうだ、ハジメさん」
踵を返して会社のある方へ行く、かと思いきやまた振り返ってこちらに歩み寄ってくる。
「今日抑制剤飲んだ?いつもより匂い濃いよ」
ふたりには聞こえないようにか小さな声で耳元に囁かれる。
突然首元に顔を近づけてくるのだからびっくりした、驚かせるなよ。はあ、と溜息をついては麻倉の胸を押す。
「…お前の勘違いだろ」
そう、勘違いだ。抑制剤はさっきちゃんと飲んだしふたりからもそんなことは言われていない。だからそう、絶対、此奴の勘違いだ。
なのに、何となく嫌な予感がした。
最初のコメントを投稿しよう!