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「うわ、誰よこの化け物・・・って、私かい。」
会社の化粧室で一人ノリツッコミをする寂しい私。
こんな姿を会社の誰かに見られてしまえば、確実に社会的に死ぬ。
そんな私は冒頭の通り、素晴らしく恐ろしい形相である。
それもそのはず。
日頃の疲れのおかげでできた、黒いくま。
重力には抗えない、年相応の肌のたるみ。
極めつけは不眠による目つきの悪さ。
こりゃあ部下たちが心配するのも無理はない。
つい先日も、過労でぶっ倒れたばかりだし。
「はぁ・・・。」
この顔を半日中晒していたのかと思うと、ここから出たくなくなる。
女子力が皆無な私には、化粧室でメイク直しをするという発想すらなく、ご覧の通り手ぶらで来てしまった。
どこまでも情けない。
腕に着けた時計に視線を移すと、もうすぐ昼休みが終わる時間だ。
真面目だけが取り柄の私が、遅れるわけにはいかない。
ぺちんと両手で頬に喝を入れた、そのときだった。
「おねーさん!」
後ろから、声が聞こえた。
とっさに振り向くと、童顔で可愛らしい男の子が、ぷかぷかと宙に浮いている。
……"浮いている"!?
「…きっと疲れているのよね!無視無視!!」
見ていないフリをして、出ていこうとするも、今度は腕を掴まれてしまい、反射的に振り返った。
「ひどいなぁー。無視するなんて!」
「あんた、人間…じゃないわよね?」
「うん!僕は悪魔のミラン!お姉さんに用があってきたんだ〜!」
「あっそ。私、急いでるからまた後でね。あと、ここ女子トイレよ。男子トイレは隣。」
早口で言い切ると、ミランの手を振り払った。
疲れていると、そういうものを引き付けやすいというのは聞いたことがあるけど、悪魔が現れるなんて、聞いたことがない。
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