純白の悪魔

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「ちょちょちょ!待ってよ!」 「なによ?」 ギロリと睨みをきかせると、さすがの悪魔も一瞬怯んだ。 そうでしょう、そうでしょう。 私の形相は今最低中の最低だもの。 眼には眼を、悪魔には化け物ってね。 「・・・お姉さん、その顔・・・あんまり眠れていないの?」 「まぁ・・・。」 「ふぅん。」 ミランは一歩前へ出ると、私の手を小さな手で包み込んだ。 じんわりと温もりを感じて、人肌の恋しさを思い出す。 「僕は本当は、人間の精気を吸い取るために人間界へ来たんだ。だけど、ターゲットがこんなやつれたおばさんだなんて、聞いてないよ。」 「おば・・・さん?」 「わぁ、こわぁい!」 「子供だからって、言っていいことと悪いことがあんでしょ。」 「え〜、僕わかんなぁ〜い。」 きゅるんと可愛子ぶるミランに、寒気がした。 「そんな顔しないで。安心してよ。普通ならすぐに精気を吸い取って殺しちゃうところだけど、お姉さんは特別!たっくさん幸せにして、精気がおいしくなってから、吸い取ってあげる。1年後くらいかな。」 「どっちにしろ死ぬんだ、私。」 「あ、死なない方法もあるよ。その場合、寿命を年単位で貰うんだけど、お姉さんは無理かな。」 「は?なんで?」 「調べたら3ヶ月後に過労死だって。」 ケタケタ笑いながら語る姿に、ようやく悪魔が現れた気がして、ゾッとした。 過労死… 無理な働き方をしている自覚はあった。 けれど、だからといってこれまで繰り返してきた働き癖を変えることは難しいし、そもそも変えようとも思わない。 「なんだ、やっぱり死ぬんじゃない。」 「けど、どっちがいいかなんて、一目瞭然だよね?」 確かに。 必死に働いて、3ヶ月後に過労で死ぬか。 この悪魔に幸せにされてから1年後に死ぬか。 どうせ死ぬなら・・・ 「本当に幸せにしてくれるの?」 「もちろん!まず、会社に行かなくていいでしょ?それからご飯も僕が作るし、洗濯も掃除も任せてよ!あとは…暇な時間ができたら、沢山遊ぼうね!映画みたり、ショッピングしたり…テーマパークにも行きたいな!!」 「なんであんたがそんなに楽しそうなのよ。」 「ふふ。楽しみだよ。」 変なの。 休まなきゃと思うほど、心は重くなっていくのに、誰かと話すだけで、こんなに心が軽くなる。 ずっと、気の抜き方なんて忘れていたから。 「決めた。私の1年間、あんたにあげる。」 「わ~い。契約成立だね。」 1年後 天界からひとりの女性を眺めていた悪魔は、 『人間と直接接してはいけない』という掟を破ったため羽を取られ、今は初恋の人と二人、人間界で平穏に暮らしている。
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