上神物語 愛は地球を救わない ー圭太編

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1  下野圭太は少し悩んでいた。それは恋敵が、異動や法事であるということだ。フリーターから地元神戸、三宮の小さな不動産屋に就職して半年、仕事にも少しずつ慣れて、生活のペースも掴めてきた頃、これで恋人の山下みはると、もっとゆっくり遊びに行けたりすると思っていた矢先のことだった。今度はみはるが、次の支店に異動になり、そしてみはるの母が一周忌を迎える時期が異動と重なり、みはるはその二つの事項に時間を取られて、圭太との時間があまりとれないようになってしまったのだ。幸いみはるの異動先は西宮で神戸からそう遠くなく、もちろんまったく会えないわけではないが、三宮で食事をするくらいで終わることが多い。圭太も社会人として二回目の就職で、異動して新しい環境や人間関係に慣れるのは大変な事はわかっていたし、法事も参加するだけではなく、主催をするとなると、色々と段取りがあるのだろうと想像がついていた。だからみはるの事情について納得はしていたが、漠然と不安がついてまわった。何というか、異動や法事だけでなく、悩みはもっと精神的な所にあるような気がしていた。それは、自分がみはるに本当に必要とされているのだろうかということだ。今までみはるには助けられるばかりで、好きだという気持ち以外みはるに何も渡せていないのだ。以前のバイト先の店長との騒動の時も、みはるに頼りっぱなしだった。その時は必死だったから考える余裕はなかったが、今就職して落ち着いた頃、自分の子供っぽさが恥ずかしいと圭太は思った。 三宮の不動産屋の窓口で、賃貸相談に来る予約の客を待っている間、圭太がそんなことを考えていた頃、彼は現れた。
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