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「ちわっす!」
快活かつ、カジュアルな挨拶に圭太はやや戸惑いを覚えながらも、
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。林田様」
と丁寧に挨拶した。予約時の事前希望のアンケート調査で、林田という青年は、圭太より4つ年下の20歳、兵庫の豊岡市出身、単身で神戸に出てきて一人暮らし用の物件を探したいという希望だった。圭太はここへ就職してから、一人暮らし用の物件の紹介をすることが多かった。もともとの社員で60歳の同僚、丸尾さんが圭太に実務を教えてくれており、丸尾さんはファミリー向け物件の紹介メインで、圭太と業務を分担していた。圭太がまだ若く経験が浅いので、わりと間取りが画一的な単身用物件の紹介から始めていた。今までは企業の転勤の単身赴任者や、下宿希望の大学生ばかりだったが、林田という青年はそのどちらでもなく、職業がフリーターで、家賃の希望も4―5万と、彼が希望する三宮、元町近辺ではやや厳しい予算だった。ただ、駅から遠くてもよく、ユニットバスOK、男なので1階でもいいし、オートロックなどの希望はなしとの事だったので、圭太はいくつか物件を事前にピックアップし、早速彼と、内見に向かうことにした。
圭太の運転で一方通行の多い三宮の街を縦横無尽に車で走り、3件ほど物件を回ったがどれも一長一短で、部屋は広めだが日当たりは悪く、立地はいいが部屋が狭い、築年数が新しめだが駅から20分といったものだった。しかし林田はそれに不満そうな顔を見せず、
「いいっすね! 俺実家が田舎の古い一戸建てなんで、こういう秘密基地みたいな感じちょっと新鮮っす」
と、どの物件に対しても前向きなリアクションだった。
二人で事務所に戻り、審査や収入を証明するものの提示、親御さんに保証人は頼めるかを圭太が説明しながら聞くと、
「それが……俺、家出してきて、今ネットカフェにいてバイトもこれから探すんですよね……源泉徴収票もあるにはあるんですけど、前の職のなんです……」
と、さっきまでの快活さを失い、気まずそうに林田は答えた。
「えぇと……それでは審査が通るかは難しいかもしれません……」
「でも、俺前の職場で、130万ほど貯めてて、初期費用は払えるし、しばらくは暮らせると思うんすよね。それに、働いていない学生でもアパート借りてるじゃないですか」
「学生さんは、親御さんの仕送りがある方がほとんどですし、それが少ない方は奨学金も借りられるので、家賃の滞りが少なくて、またパターンが違うんですよ」
圭太も大学時代も今も実家に暮らしているが、大学の同級生で地方から出てきていた者達を思い浮かべながら言った。彼らは、一見普通の青年達だが、少なくとも仕送りを親から家賃を含めて10万以上はもらっていたと思う。親自身の生活費とは別に10万以上子どもに仕送りするのは、今の時代、そう簡単ではないだろうと圭太は考えた。それが可能な彼らは、彼ら自身当たり前すぎて気づいていないのかもしれないが、間違いなく裕福な家であることは確かだ。そんな若者もいれば、今目の前に家出をして、職さえない若者もいる……。不動産屋は客に合わせて物件のグレードが上下するため、格差社会を感じずにはいられない商売だと、圭太はこの半年で感じていた。
「立ち入ったことで申し訳ないのですが、家出とは穏やかではないですね……親御さんにもう一度相談できないのですか? 」
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