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「それで? その子何て言ったの? 」
山下みはるが焼き鳥を食べながら、事の顛末を聞いて、圭太に問うた
「こんな田舎嫌だみたいなことを言って、オヤジとケンカして引っ込みがつかないって言うんよね。とりあえず審査してほしいって言われたからそれぞれ審査出したけど、やっぱNGだった……」
「なるほど、もううちではお断りです案件? 」
「いや、今繁忙期じゃないし、丸尾さんに相談したら、「もうちょっと付き合って物件探してあげたら? 未来ある若者の可能性をつぶしちゃ可哀そうやろ」やって」
「話だけしか知らんけど、丸尾さんいい人やね。圭太くんにも最初のほう同行して仕事じっくり教えてくれたし。でもあんまその若者に肩入れしすぎんほうがいいかも。無理にアパート借りてすぐ家賃滞納とかなったら、紹介した不動産屋と大家さんの関係にもひび入るやん」
みはるは銀行員だけあって、いつも現実を的確に突き付けてくる。そこが魅力でもあり、みはるの有能さでもあるのだが、正直少し冷たさを感じる時もあった。でも、これまでのことを踏まえて、みはるのそういった面は、現実をごまかさない大人の優しさなのだと圭太は自覚し、それに気づいてからはみはるの事を、より一層大切に思うようになった。
「みはるさんは、やさし……」
圭太がそう言いかけると、みはるのスマートフォンが鳴った。
「もしもし、お兄ちゃん? お布施? なんかお父さんの時の記録をお母さんが残してたし、そこから物価上昇分上乗せくらいかな。法事の後のご飯はお父さんの時と一緒の店。いいよ、お布施私も出すし、お兄ちゃんも家族で東京からくるし、お金かかるやん。うん、うん、わかった。当日よろしくね」
みはるは手短に電話を切り、ゴメンねと圭太に言った。
「いや、あのさ……何かぼくに手伝えることある? 一周忌の準備大変そうやし……」
「やさし~ありがと! でも今回はお寺でやるから、お坊さんの車の送迎とかないし、大丈夫やで」
みはるは、圭太の申し出は運転手のことだと思っているようだった。二人は付き合ってまだ一年足らずだが、付き合い始めの就職活動や店長との騒動、そして圭太の就職、みはるの異動、山下家の法事といつもお互い生活に追われているのが実情で、恋愛をゆっくり楽しむ余裕はなかった。社会人の恋愛って、なかなかにハードなものだと圭太は実感していた。おまけに圭太の勤務先は、不動産屋のため水、日が休みで、カレンダー通りの休日のみはるとは、旅行に行きたいと思っていても中々チャンスがないままここまできてしまった。
この日は金曜で、山下家の法事は明後日の日曜、翌日の土曜は法事の準備があるので、みはるの家にも泊まらせてもらえず、「今日もごはんだけか」と思いながら、圭太はとぼとぼと地下鉄へ乗って自宅へ帰った。帰り道、仕事も恋愛も中々ドラマみたいに、大口契約を取ったり、二人で遊園地や旅行へ行ったりとは行かないものだと圭太はため息をついた。
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