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日曜の午前中、みはるは一周忌の法事をつつがなく終え、兄夫婦、親族と和食店で食事をしていた。
「これでひと区切りだな。みはるほんま色々ありがとう。オレあんまり帰ってこれなかったから、全然手伝えなかったし」
兄の勝がみはるに礼を言うと、
「いや~仕方ないよ。お兄ちゃん東京だし、仕事もあるし」
みはるはもともと親の闘病や葬式、家の片づけをこなしている時に、兄に手伝ってもらうことをはなからあまり期待していなかった。だがそれをあまり恨みにも思っていなかった。兄に手伝ってもらえなくても、会社から看病休暇をもらえたり、同僚のフォローもあった。それに家の片づけは圭太が手伝ってくれた。遠くの親戚より近くの他人とはよく言ったものである。それでも兄は兄なりの負い目があるのか、これから自分の子どもにさらにお金がかかる時期にもかかわらず、遺産を6:4で、みはるの取り分を多めにしてくれた。色々な局面で様々な人達が自分を助けてくれたのだと、みはるは改めて自分が恵まれていたことを実感した。
「みはるちゃんもやっとこれで一息やし、これからを考えなアカンな」
父の弟、みはるにとって叔父が話に入ってきた。そしてみはるは、「やっぱり来たな」と思った。
「そうですね~。マンションでも買おうかなって感じです。阪神間なら後々売れやすいし」
と、実際マンションを買うかどうかは置いておいて、みはるが無難に返すと、
「え~ゆうてもまだ三十代やし、婚活は? このごろは晩婚化だし、なんぼでも巻き返しできるやん」
みはるは今の自分は巻き返さなくてはならない状況なのかと思ったが、この話題に少々ひきつった顔をしている兄と兄嫁を見て、
「今ね~、ホストにハマっててそいつに貢いでるんですよ。昨日もドンペリ入れたし。でもさすがにホストと結婚はないですね」
と返して叔父が驚いて黙り込むと、
「やだ、冗談に決まってるやん。また新しい支店に異動したばっかでバタバタしてるんよ」
と笑いながら返した。そして兄と兄嫁も笑いながら「よかった、冗談で」と言い、この話題を収束させることができた。みはるもまさか10歳下のフリーターから就職したばかりの青年と、何の先の見通しもなく付き合っているとは言えなかった。だがみはるは確実に圭太が生活の一部に入りこんできている感覚があった。一緒にご飯を食べたり、圭太が運転する助手席に座ったりすることが、日常になってきているのだ。でもだからといって何かこうすぐ形を求めるのは違う気がしていた。このような場で付き合っていることを話せば、すぐどうするのかという話の展開になってしまう。みはるは懐石の定食を食べながら、今度またあのラーメン屋に圭太と一緒に行きたいなと考えていた。
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