上神物語 愛は地球を救わない ー圭太編

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7  「気持ちいいね、露店風呂付きの部屋最高」  圭太とみはるは、一泊二日で淡路島の温泉に来ていた。みはるは法事、圭太は林田の部屋探しが終わり、みはるが義務付けられている有給の消化で、圭太の休みに合わせてくれて二人は初めて旅行に出かけたのだ。  「それにしても、ちゃんと家見つかって話まとまってよかったね。話聞いてると丸尾さん何者なのかちょっと気になるけど」  事の顛末を聞いたみはるがそう言うと、 「まぁうちは中小企業だし、今の丸尾さんが大丈夫ならそれでええと思う。でも丸尾さんに「ぼくももうトシやし、下野くんにも重要事項説明できるようになってほしいから、宅建取ってな」って言われたわ」 「なるほど、じゃあまた勉強せなアカンね」 「あ~難しそうだし、大丈夫かな。ところでさ、遠藤が林田くんに何て名乗ってたのか聞いたら、「ハイパーメディアクリエイター」って言ってたみたい。ぼくももううっすらしか、このネタわからんかったけど、もう今の二十歳には通じひんのかな」  みはるは、久々に聞いた単語に爆笑していた。そしてみはると二人で部屋の露天風呂に入りながら圭太は、部屋の鍵の引き渡し時の事を思い出していた。鍵の引き渡しは通常事務所で行うのだが、下見なしで物件を決めたので、部屋への案内を兼ねて、圭太は林田と物件に行ったのだ。 「どうですか? ホストの幽霊は感じますか? 」 「いや、今のところは大丈夫です……ところで、ちょっと聞いてもらえます? まだ言ってなかったことあって」  林田は、そこで恋愛対象が男であること、豊岡にいてはアプリで相手探しもままならず、この先伴侶となるパートナーを見つけるための恋愛もできないと思って、神戸に出てくることを決めたというのだ。男女の恋愛ができるのなら、地元で働いていればいいのだが、マイノリティーゆえに相手が見つからないし、アプリでも最初から遠距離恋愛前提は難しいこと、東京へ出ることも考えたが、さすがに地元から遠すぎるし、一番近い都会、神戸なら相手が大阪でも出会いを探せると思ったと、林田は打ち明けてきた。 「そうだったんですか……」  圭太はそれ以上、二の句が継げなかった。誰かと出会って恋愛するのは、当たり前の事だと思っていたし、それがままならない環境の焦燥感は、圭太には想像がつかなかった。 「すみません、いきなり。でもカフェで下野さん飛び込んできた時、素直にときめきました。オレのためにここまで一生懸命にやってくれたんだって」 「え? もしかしてそれが契約の決め手なんですか? 」  圭太が驚いて聞くと、 「そうです! でも下野さんはノーマルでしょ? だからこれ以上アプローチしません。オレもこれから相手探せるように頑張ります! ありがとうございました! 」  林田は初めて事務所に訪れた時と同じように、快活な調子で圭太に言い、圭太にハグをした。圭太はとくに嫌悪などは感じず、 「こちらこそ、お役に立ててよかったです! 林田さん、ようこそ神戸へ」  と言って、物件を後にした。  「圭太くん大丈夫? のぼせてない? 運転しんどかったから疲れた? 」  みはるが、お湯につかりながらぼーっとしている圭太に語り掛けた。 「ううん、大丈夫」  デリケートな話題なので、林田の恋愛対象の話は、圭太の胸にしまっておくことしていた。 「よかった……あのさ、今日運転してるとこ久々に見たけど、やっぱカッコイイ」 みはるはペーパードライバーゆえに、圭太の運転姿が好きなようだ。圭太自身運転は得意だし好きだが、特に自分の運転姿というのは意識していなかった。みはるが言うには、上手い人にありがちな「イキリ感」がなく、腕や目線の使い方がスムーズでそれが色っぽいとのことだ。その腕に抱かれると思うと、ドキドキすると露店風呂の湯舟でささやくようにみはるに言われると、圭太もより一層体温が上がった。  ヒーローにも、頼れる男にもほど遠いが、とりあえず今日の所はこれでいいかと圭太は思った。                       第三話に続く
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