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園田歌男。
少年期に突如として発症した統合失調症の闇に飲み込まれた男。
本来であれば、若いエネルギーに満ち、人生を謳歌するはずだった時間のほとんどを、園田は精神科の隔離病棟か、この荒れ果てた自室で過ごすことになった。
彼の日常のほとんどの時間は、錯乱した妄想の中にあった。
冷静さを取り戻したわずかな時間、彼は読書と執筆に没頭した。
彼はなんでも読み漁った。漫画、小説、科学、哲学の専門書。そして、知りえた知識を小説や論文という形でアウトプットする。
精神科の医師たちは、園田の内面を理解するためのヒントを、彼の創作物の中に求めようとした。
しかし、それはいつも徒労だった。園田が書き上げた小説のほとんどは、支離滅裂で物語の体を成しておらず、論文に至っては脈絡のない数字の羅列と、存在しない抽象記号がちりばめられた暗号文のようだった。
園田は長期の入院治療から退院した後、一人で外出し、病院への外来通院ができる程度までには回復した。
家族の支援なしでは日常生活すらままならなかった園田にとって、それらの行動は明らかに回復の兆しだった。
俺は園田の瞳を覗き込む。
白い顔にぽっかりと開いた、二つのがらんどうを覗き込んでいる気分だった。
園田は、ぶつぶつと独語をつぶやいたかと思えば、脈絡もなく忍び笑いをもらしている。
無意味だと分かってはいたが、問いかけてみる。
「園田歌男よ。お前は守護者か?」
園田にはその声は届いていないようだった。
彼は相変わらずの独語と一人笑いを続けている。
「どうやら、お前ではないようだな」
本命のターゲットに狙いを定め直すことに決めて、俺はその場を後にした。
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