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ペンローズタイルとスケッチ
翌朝、私たちが訪れたのは、町はずれの住宅街にある失踪した少年の家だった。
少年の住所は、涙ぼくろの警官から聴取済みだった。
瑞希が呼び鈴を鳴らすと、ほどなくして父親と思しき人物が戸口に現れた。
ベージュのジャケットに、グレーのシャツという小洒落たいでたちだったが、その表情は明らかに憔悴していた。
私たちの姿を認めた瞬間、その眼に警戒の色が走ったのを私は見逃さなかった。
それ以上警戒されないよう、私は沈痛な面持ちで自己紹介した。
「このようなときに急に参って申し訳ございません。清信君の失踪前に、気になる言葉を本人から聞いたものですから。もし、差支えなければ、清信君のお部屋を拝見させていただけないでしょうか?」
父親は意外にも、あっさりと私の提案を受け入れてくれた。
「清信の行方について、何か手がかりがあるのでしたら大歓迎ですよ。どうぞこちらにお上がり下さい」
少年の父親に促されて、私たちは二階の子供部屋に通された。
そこには、意味の理解できない、数字の羅列や図形が書きなぐらえたスケッチブックが散乱していた。
本棚を確認する。
どこにでもあるような子供向けの本の中に、数冊の数学の書籍が並んでいた。
「驚かれたでしょう。清信はなんというか、非常に個性の強い子供でして。なかなか学校になじめなかったようです。いつからか、この部屋に引きこもって、何かよくわからない数字や図形を書くことに心を奪われてしまったようでした」
「学校には行かなくなったんですか?」
「最初は、頑張って後押ししたんですがね。どうやら、ひどい“いじめ”に遭っていたみたいです。なにせ、清信は内気で社交性が無い代わりに、勉強だけはよくできる子でしたからね。周りの子供たちにとっては面白くなかったんでしょう。何度も学校には掛け合ったんですが、事態は一向に良くならなくて…。まあ、私ども夫婦も、無理に学校に行かせることはせず、しばらく好きにさせることにしたんです。今思えば、それが間違いでした。まさか、こんなことになるなんて……」
“いじめ”という言葉に、私は胸が締め付けられる思いがした。
思春期の子供たちの無邪気な残酷さは、身に染みるほどよく知っている。
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