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私は思い立って、大学の望月先生に画像を転送する。
しばらくしてから、望月先生から返信があった。スマホの画面越しからも、先生の興奮が読み取れた。
『これは、イギリスの大数学者ロジャー・ペンローズによる平面充填問題の亜型だ。繰り返しのパターンを回避しながら二次元平面を覆い尽くす図形の組み合わせはあるか、という問題なんだけどね。このスケッチは完全に命題を実証している。しかも、ここで用いられる図形の組み合わせは全く未知のものだ!』
『先生は、本当に何でも知ってるんですね ( ゚Д゚)!』
『実は、ペンローズタイルは大のお気に入りなんだ。ただの数学的対象にとどまらず、芸術的な美しさを秘めている。そういえば、研究に打ち込むときに使っている隠れ家に、ペンローズタイルを絵画のように飾ってるよ』
『先生、この絵をまだ幼い子供が描いたとしたら、どう思われますか?』
私の返信に対して、望月先生の反応は早かった。
『そんな可能性はまずないだろうけど。もし仮にその話が本当だったとしたら…、その子は宇宙人だからNASAに連絡したほうがいい。』
「見つけたぞ!!」
右京の興奮した声が響く。
右京が手にしているのは、一枚のスケッチブックの切れ端だった。
そこには、額に角を生やした髭面の屈強な男が跪いている絵が描かれていた。男の背中からは黒い蝙蝠のような翼が生えている。
数字や幾何学図形で覆われたスケッチの中で、この絵だけが異様な存在感を放っていた。
「どう見ても悪魔の絵だ。犯人の首に彫られた刺青を、清信君が思い出してスケッチしたんじゃないか?」
私は絵を見せられて、ハッとした。
その絵には確かに見覚えがあった。
「うーん、何か、この絵、見たことがある気がするな。どこでだっただろう…」
「瑞希、この絵はキーストーンだ。何が何でも思い出せ!」
しばらく考え込んでから、私は思い当たった。
「そうだ、春休みの課題で、中央図書館の哲学棚を漁っていたとき、この絵に似た本を手に取った気がする…」
私がつぶやくやいなや、右京は部屋から駆けだしてしまった。
私も右京の後に続こうとして立ち止まり、ふと、父親に疑問を投げかけてみた。
「あれから、清信君からの連絡は全くないんですか? 犯人と思しき人物からも」
「ああ、それが全く不思議なことに、犯人からの連絡は一切ないんです。普通は、身代金をほのめかしたりするもんでしょう。それが何の連絡もないんです。不気味なくらい。」
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