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「いや失礼、失礼」そう言って、照れ笑いを浮かべると、そそくさと実田は席を立とうとした。それから思いついたように振り返る。
「私は仕事も早期退職して、細々と暇をつぶしているしがないおじさんだ。また何か、疑問があったらいつでも声をかけてよ。」
実田は懐から手帳を取り出すと、一枚をちぎってその上に何かを書きつけた。
どうやら、実田の個人的な携帯番号らしい。
「いやいや、楽しいひと時をありがとう。それじゃ」
そう言い残して、実田は出口のほうへ消えていった。
取り残された私と右京は顔を見合わせる。
私には話す言葉が思いつかない。
すると、右京が頭をかきながら口を開いた。
「整理しよう。まず清信君を連れ去った犯人は、厭世的というか敗北的思想を持った人物だ。シオルーンの著作の扉絵を刺青にして彫るくらいだから、生粋のペシミストとみて間違いないだろう。そして、ホルスの守護者の意味。これは、やはり“何かを守る者”っていう意味だと思う。清信君は、ホルスの守護者として認識された。だからこそ拉致されたんだ。そして、ここからは俺の思弁だが…、さっきも言った通り、ホルスの守護者は全部で四体いる。
わざわざ犯人が、ホルスの守護者というくらいだから、標的は清信君だけじゃないのかもしれない」
「ほかに、三人の人間が狙われているっていうこと?」
「その可能性は高いだろうな。まあ、残りの人物がどこの誰かも分からないけど」
「ねえ、私思ったんだけど。このシオルーン関連の書籍を頻繁に借りに来る人物を、特定すればいいんじゃない?」
「ああ、それは俺も思ったよ。ただ、最近の図書館ってのは、本の貸出者に対する情報をストックしていないんだ。貸された本が返却された時点で、借り手の情報は削除され、データベースに残らないようになっている。」
「えー、じゃあ打つ手なしじゃない。これで行き止まり?」
一気に虚脱して、椅子からずり落ちる私を、右京が不敵な笑みで覗き込む。
「俺たちはめちゃくちゃ重要な手がかりを握ってるじゃないか。犯人が、体のどの部位にどんな刺青を掘っているか知っている。これは、相当な手がかりだぜ。」
「…どうするの?」
私は再び身を乗り出す。
「瑞希探偵、探偵は足を使うんだよ。市内のタトゥー専門点を片っ端から洗うぞ!」
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