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私たちが次に訪れたのは、主要駅から南にある寂れた繁華街だった。
先ほどのエネルギーに満ちたエリアと違って、開店前の繁華街は人通りも少なく、陰鬱な空気に沈んで見えた。
二軒目のスタジオは古い雑居ビルの四階にあった。集合ポストで店名を確認し、狭い階段を上って店の前に立つ。
塗装が剥がれたスチールの扉を開くと、お香の強烈な臭気が鼻についた。
先ほどのスタイリッシュな店内と打って変わって、この狭くて薄暗い部屋は、とにかく怪しいガラクタにあふれていた。
取り付けられた壁棚には、酒瓶や年代物のフィギュアや、高麗人参を沈めた曇ったガラス瓶などが脈絡なく並べられ、天井からは場違いなシャンデリアとともに、髪の毛の剥がれたリカちゃん人形やキューピー人形や能面がぶら下がっていた。
タトゥーを思わせるデザインや看板は、一切見当たらない。
カウンターの奥に金髪の痩せた男の背中が見えた。
勇気を出して声をかけると、男が面倒くさそうに振り返る。拍子に、男の顔中に取り付けられたピアスの群れが一斉に弧を描いた。
「す、すいませーん。ここって…タトゥースタジオ…、であってますか?」
「そうだよ」
「いやあ、ちょっと興味があるもので…。いっちょ、入れてみようかなー、なんて」
男が警戒した目で私を睨みつける。先ほどの店とは大違いの塩対応だ。
男の目の下には青黒いクマが出来ている。恐らく、寝不足でできたクマではなさそうだ。
「よかったら、カタログとか見せてもらえませんか? この店で仕上げた作品がわかるような……」
「もちろん、いいよ」
店員はカウンターの下をごそごそやると、一冊の冊子を見せてくれた。人相が悪いだけで、意外といい人なのかもしれない。
私と右京は破れて綿が飛び出したレザーのチェスターフィールドに腰掛けると、慎重に冊子を繰った。
「あ!!」
二人同時に声を上げる。何事かと、カウンターから顔を出したピアス男にも構わず、私たちはそのページにくぎ付けになった。
その写真には、顎から腰までの男の裸身が写っていた。
筋肉質な上半身に隙間なく彫られたタトゥー。ほとんどは、どこか異国のアルファベッドの羅列だ。
そして、男の右側の首元にそれは確かにあった。
跪き、額に角を生やした髭面の屈強な男。男の背中から生える黒い蝙蝠のような翼。
完全一致だった。それはまさに、シオルーンの哲学書の扉を飾る、悪魔の絵そのものだった。
私は立ち上がると、ピアス男に詰め寄った。
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