刺青を探せ!

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「私たち、この人を探してたんです!この人は誰なんですか? 何でもいいので情報をいただけませんか!?」 カウンターに身を乗り出した私の剣幕に、一瞬ピアス男は怯みかけたが、すぐに元の不愛想な表情に戻った。 「どんな事情があるか知らねえが、はいそうですか、って教えられるわけがねえだろう? この世界には守秘義務ってもんがあるんだ。俺たち刺青家業ってのは信用を失ったら、やっていけねえんだよ」 私はなおも食い下がる。 「それは分かります。でも、とても重要なことなんです。ひょっとしたら、人の命がかかってるかも知れないんです!」 「よし、ではお前に情報を渡したとしよう。結果、この写真の男が人の命にかかわるような重罪を犯していたとする。さて、誰がタレこんだのかはすぐに明らかになる。俺はこの犯罪者の恨みを一生買うことになるわけだ。もし、単独犯ではなく組織がらみの犯罪だったとしたら? 俺は報復の対象になる。見せしめとして、命を狙われるかもしれない。いいか、タトゥーアーティストも客も、この業界に清廉潔白な人間なんて一人もいないんだよ。俺たちは比喩じゃなく、命がけで仕事をしてるんだ。客の秘密は墓まで持っていく。その覚悟がなけりゃ、絵でも描いて細々食っていくさ」 「で、でも……」 私の肩に手がかかる。見上げると、厳しい目で右京が首を振るのが見えた。 私はすっかり意気消沈した。 「す、すいません。ご迷惑をおかけしました」 ピアス男に深々と頭を下げてから、私たちは怪しい店を後にした。 「あと、もう一歩で犯人の手がかりを掴めそうだったのに」 「仕方ないさ。刺青屋の言うことも最もだ。だが、他にも有力な情報は手に入ったよ」 「有力な情報?」 「ああ、まず犯人はこの市内近隣で仕事をしているか、または住んでいる。わざわざ、あんな寂れた繁華街の怪しいタトゥースタジオに、遠方から足を運ぶ物好きはいないだろう。カタログを見たところ、カリスマ的な技術や突飛な発想力など、特別な付加価値があるようにも見えなかった。それから、例の首の刺青以外にも、上半身にいくつか異国の文字が彫られてただろ? あの文字の中から何か分かりそうだ」 「は? あんな短時間で刺青を全部記憶したの? 私、首の絵に夢中で、その他は全然覚えてないんだけど」 「スマホ、見てみな」 私はハッとして、自分のスマホを鞄から抜き取ると、急いで写真ライブラリを呼び出した。 そこには、カタログに写っていた刺青男の上半身がしっかり記録されていた。 「い、いつの間に撮ったの? 右京、あんたって実は詐欺師? っていうか、純粋な英語じゃ無いみたいだから意味は分からないんじゃない?」 「刺青の表記について意味が解りそうな人物に、ついさっき会ったじゃないか。早速、連絡してみようぜ。」
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