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胸ポケットの携帯が着信を告げる。
画面に映る送信者を確認してから、俺は応答した。
「今さっき、変な客が来た。作品のカタログを見せてくれって。そんで、あんたのタトゥーを写真に収めて帰って行ったよ」
「そいつは何か言っていたか?」
「あんたの情報を教えてくれってさ。もちろん、何も喋っちゃあいない。ただ、人の命にかかわる事件だなんだって、興奮してたぜ。なあ、どういうことだ? やばいゴタゴタでもあるのか? 面倒はご免だぜ」
「何も心配することは無い。黙って仕事に打ち込んでりゃ、何も問題ないさ。ところで、店に来た客について、少しばかり確認したいんだが……」
電話を切ると、携帯をソファに投げ捨て、俺は姿見鏡の前に立った。
ボタンをはずしてワイシャツを脱ぎ捨てる。
鏡に、年齢の割に引き締まった身体と、無造作に配置されたラテンアルファベットの羅列が映し出される。
俺は、胸元に手をやる。そこには四つの単語が強調して記されている。
一文字一文字を指でなぞりながら、知らぬ間につぶやいていた。
「焦りは禁物だ。慎重に行動しろ。チェックメイトはもう目の前なんだからな」
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