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それだけ言い残すと、通話は突然切れてしまった。
私は受話器を置くと、慌てて窓辺に移り、外の様子を確かめる。
通りを行き交うまばらな人々と、通り過ぎていく車。
怪しい人影は見当たらない。
急いで席に戻ると、私は興奮しながら右京に電話の内容を告げた。
右京は一瞬、怪訝な顔をしたが、それから妙に落ち着いた仕草で思索にふけり始めた。
「犯人からの電話だったのよ! 私たちの行動がバレてるの! このままじゃ、私たちの身が危険かも! 落ち着いてる場合じゃないんじゃない?」
「まあ、すぐに取って食われるわけでもないさ。ちょっと整理してみよう」
そう言うと、右京は無理やり私を座らせた。
どっと疲労が押し寄せてきて、私はソファに背を預けた。
「わかったことを基に推理しよう。まず、厭世的思想に狂った秘密教団の存在。奴らはスロベニアの天才少女を、信者を使って殺害した。神のお告げによって。なぜ、彼女が殺されたのか? 魔法使いだからだ。ターゲットは四人いる。魔法、知性、洞察、槍を司るホルスの守護者たちだ。信者たちは、殺害すべきターゲットのキーワードを身体に刻んでいる。確固たる決意の表明としてね。そして、ありがたいお告げはこの国の、こんな辺鄙な田舎都市にも飛んできた。そして、この地にも狂った信者がいた。清信君が攫われたのは、おそらく“知性”の象徴だからだ。そして、犯人は俺たちの存在に勘付いている、というか、俺たちの名前まですでに特定している」
「まだまだ、わからないことだらけよ。そもそも教団の目的は一体何? どうして彼らは特定の四人を標的にしているの?」
「教団の中心教義を思い出してみろよ。『無意味な世界で、空しい価値規範に呪われた人々を救済する唯一の方法、それはこの世からすべての人と人工物を消し去ることである』。奴らは、このとんでもない目的を達成するチャンスを掴んでるんじゃないか?」
「核兵器とか、未知のウィルスとか?」
「具体的な方法は分からないが、人類世界を滅亡に導く恐るべき計画が進行している。そして、この計画を阻むかもしれない四人の邪魔者がいることに気づいたんだ。」
「邪魔者って、スロベニアの少女も清信君も、まだほんの小さな子どもみたいなものよ。どうして、こんな子供が世界滅亡の足枷になるのよ」
「将来的なリスクだよ。恐らく教団の恐ろしい企みは、長期的な展望のもとに計画されている。そして、この子たちがこのまま順調に育って才能を開花させたら、教団の企みにとってのっぴきならない障壁になると判断したんだ。スロベニアの少女と清信君の共通点は何だ? 分野は違うが、二人とも並外れた天才だってことだ。今になって解ったよ。ホルスの守護者。それは、やっぱり例えだった。彼らは未来に訪れる何かしらの世界的危機から、人類を守るために選ばれた守護者なんだ。少なくとも、教団の連中はそう考え、彼らをそう呼ぶことにした」
「予言ってやつ?」
「まさに予言さ。でも、胡散臭いの一言では片付けられない。スロベニアの少女はともかく、どうやって、奴らはこんな極東の国の、清信君の存在を見つけたんだ? 天才だと勘付いたんだ? 清信君の才能は、世界的にはまだ何も発信されてない」
「未知の力を備えた本物の預言者がいるっていうの?」
「それは分からない。が、清信君を誘拐した犯人については検討がついたよ」
「え!?」
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