演繹

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最期の右京の一言で、私はソファから跳ね起きた。 「考えてみろよ。犯人は清信君が並外れた知性の持ち主であることを知っていた。清信君が書いた石畳の落書きが、素数の深淵に潜む隠されたパターンを探す試みだと知っていた。つまり、犯人の要件①は、清信君の知性を見抜けるだけの知識を有する人物であること。そして、犯人の要件②、何よりも清信君が行っていた奇妙なふるまいを知ることができる人物であること。犯人の要件③、俺たちが、清信君の失踪事件に首を突っ込んでいるのを知っている。そしておさらいだが、犯人はこの市内で仕事をしているか、居住している人物だ。これらの要件を満たしている人物は誰だ?」 私は思い当たる。 「ま、まさか、清信君のお、お父さん!? いや、待ってよ、あの非協力的な交番の駐在も怪しいかも」 右京が呆れて頭をかく。 「犯人の前提条件を追加しとくべきだったな。犯人は体中、刺青だらけだ。」 「あっ!!」 全ての要件が一人の男に結像した。 その男は十分な知性を持ち、私たちから清信君のふるまいについて情報を得ることが出来、私たちが失踪事件に首を突っ込んでいるのを知っている。 そして、その男はビートルズを信奉しているから、その首元はセンター分けのロングヘア―にいつも隠されている。 「数学科の……、も、望月先生だったのね……」 「ビンゴ!! あの先生は、教団からのメッセージを受け取った。どこまで具体的な情報かは分からない。恐らく、ターゲットはこの市内周辺に住み、並外れた“知性”を持った子供であることを知らされたんだろう。そこへ、運悪く俺たちが情報提供者になってしまった。近隣に一晩でウラムの螺旋を書きつける人物がいることを知ったんだ。望月先生は、すぐに清信君の存在を特定しただろう。そして、俺たちは清信君の部屋から、例のペンローズタイルのスケッチを望月先生に送信した。それで、俺たちがこの事件に首を突っ込んでいることを知ったんだ。あの先生の本性、それは破滅的思想に心酔した狂人だったんだよ」 「何てこと……。右京、すぐに警察に通報しないと!」 「警察になんて説明するんだ? 犯人は実は、世界滅亡を企てる秘密教団の信者で、被害者は世界を救うかもしれない天才少年だと? まともに取り合ってもらえないよ」
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