演繹

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「じゃあ、どうするのよ!? こうしてる間にも、清信君は…」 「いや、まだ望みはある。瑞希が初めて清信君に会ったとき、あの子はこう言ったよな? 怪しい男が自分のことを “ほるすのしゅごしゃ”かって聞いてきたって。つまり、あの時点で、望月先生は決定的な確信をまだ得ていなかったのかも。教団から与えられた情報に、守護者の名前や顔といった決定的な情報が不足していたのかもしれない。望月先生が今も確信に至っていないとしたら、まだ清信君が生きている可能性はある」 私はその言葉で俄然火が付いた。 急げばまだ間に合うかもしれない。 「なあ、瑞希。清信君の部屋から望月先生にメッセージを送ったときの返信をもう一度見せてくれないか?」 私たちは望月先生とのショートメールの履歴を急いで確認する。 ある一文に私の目は引きつけられた。 そこにはこんなやり取りが残っていた。 『先生は、本当に何でも知ってるんですね ( ゚Д゚)!』 『実は、ペンローズタイルは大のお気に入りなんだ。ただの数学的対象にとどまらず、芸術的な美しさを秘めている。そういえば、研究に打ち込むときに使っている隠れ家に、ペンローズタイルを絵画のように飾ってるよ』 隠れ家! 「隠れ家だ。瑞希、何か思い当たることは無いか?」 そう言えば、望月ゼミの生徒が話してるのを聞いたことがある気がする。あれは、どこだったろう…。共通授業の講義室か、大学の食堂か…。 私は、必死に記憶の細い糸を手繰り寄せた。 たしか、その子はこんなことを言っていた。 (望月ゼミの打ち上げ? 結構楽しかったよ。なんか、人里離れた隠れ家みたいなところのテラスで、みんなでバーベキューしたんだ。西日が眩しくて湖に反射して綺麗だったな…) 私がおぼろげな記憶の断片を話すと、右京がスマホをひったくる。 地図アプリを開いて、急いで検索を始める。 「この辺にある湖っていたら…、祖猿湖(そえんこ)くらいだな」 「祖猿湖?」 たしか、市内から東の山の麓に祖猿寺という古いお寺があった。あの辺なら大学からも近いし、周辺は深い森に囲まれて静かだし、研究に没頭するならうってつけだろう。そして、何かを隠しておくのにも…。 「とにかく当たって砕けろだ」 「今から行くの? 周囲に望月先生が見張ってる可能性が高いのに?」 「行くんだよ。もう時間がない」 私たちは急いで支払いを済ませると、喫茶店を飛び出した。 「見つかったらどうすんのよ?」 走りながら問いかける。 「どうせ相手は一人だ。しかも研究ばっかりしてる陰キャだぜ。いざとなったら…」 「いざとなったら?」 「瑞希の体重で押しつぶしちまえ」 右京が客待ちのタクシーに滑り込んだので、私は何とか殺意を押し殺した。
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