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日常の違和感
「あれ? これ何だろう。」
通いなれた大学への通学路。
朝の光に煌めく深緑の並木道を歩きながら、私はふとした違和感にとらわれた。
「瑞希、遅れちまうよ。さっさと行こうぜ。」
花咲右京が私を急かす。
通学路で右京に会うのは久しぶりだ。なにせ、時間通りに講義に間に合ったためしがない。
遅刻常習犯に先を急かされて、私は少し不快になった。
右京を無視して、その場に立ち止まる。
違和感の正体はすぐに解った。
大学へと続く石畳の歩行路。格子状に敷き詰められた石のタイルのうち、いくつかに赤い×印が付けられているのだ。
恐らくクレヨンのようなもので、人の手によって記されている。
×印は同じタイルの列に沿って不均等に記されていて、それは遥か遠方までどこまでも続いているように見えた。
私は歩きながら、不規則に現れる×印を数え上げる。ちょうど、八十個目の×を数え終えた時点でそれは途切れていた。
「きっかり、80個で途切れてる…。これって、まさか…暗号!?」
私が目を輝かせて右京に向き直ると、彼は溜息とともに頭をかいた。
すっかり呆れているらしい。その態度にまた腹が立った。
私の名前は一葉瑞希。万葉大学に通う二年生だ。
そして、私のマイブームはミステリー。
ミステリー映画にハマっている私は、日常のささいな出来事の中に潜む謎を探っていた。
確かにグーグルマップを使って、大学を囲む五芒星の結界を作ったこと(ちなみにその結界は三つの神社と動物病院とセブンイレブンからできていた)は無理矢理すぎたし、鉄筋コンクリートの建物の近くで磁石が狂うのを発見して、大騒ぎしたのも大人げなかった…とは思う。
しかし、今、目の前にある光景は明らかに違う。これこそ、これぞミステリーだ。
私は俄然、テンションが上がる。
「ねえねえ、誰が、何の目的でこんな印をつけたと思う? 80、この数字に何か意味があるのかも……」
「あのさあ、せめて歩きながら考えようぜ、講義に遅れるし…」
無視して先を急ぐ右京に追いすがると、私は声を荒げた。
「こんな超常現象に出くわして、なんで心がときめかないかなあ? 相変わらずロマンがないね、右京は」
「どこが超常現象だ。だいたい暗号のパターンを見出したいんなら、なんで×の総数に着目するんだよ」
「何が言いたいのよ」
右京は再び頭をかくと踵を返して、元来た道を引き返した。
「パターンを見出すなら、×が現れる間隔だろう普通。こんだけ不規則に×印がつけられてるんだから。ほれ、見てみろよ。最初の×が現れてから、次の×が現れるまでの間隔は石のタイル1枚、その次の×までタイル2枚、その次の×まで2枚、その次が4枚、その次が2枚で……、あ、これ…」
何かを発見した様子の右京。私の対抗意識に火が付く。
「ちょ、ちょっと待ってよ。えーっと、×と×の間隔は…、1,2,2,4,2,4,2,4,6,2,6……。なかなか難しいかも……」
「素数だよ」
「へ?」
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