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三年前、アレハンドロの一人娘がこの世を去った。当時付き合っていた素行の悪い彼氏のコカイン窃盗事件の巻き添えを食ったのだ。
麻薬組織による報復は凄惨を極めた。まだティーンエイジャーだった娘は、彼氏とともに生きたまま皮を剥がされ解体された。
娘が殺害される様子を収めたDVDが診療所に送りつけられ、それを見た妻は発狂し、自死を選んだ。
それ以来、アレハンドロはゆっくりと狂っていった。
彼の怒りと憎しみは、やがて世界の全てに向けられた。
小さな診療所の中で見る白昼夢は、いつも彼の怒りの業火に焼けただれる世界だった。
それはいつしか、彼の渇望となった。
彼の最後の望みは、世界の終焉の一端を担い、その一部始終を眼に焼き付けることだった。
アレハンドロはビデオカメラのアングルを慎重に調整し直すと、鋭利な刃物を取り出して横たわる少年に言葉をかける。
「これからお前を生贄として神々に捧げる。まずお前の大胸筋を割いて剥がし、胸骨を露出させる。胸骨と肋骨を分離して心臓を露出させたら、太い動静脈を切断して、生きたまま取り出す」
彼は少年に、これから身に起きる凄惨な過程を丁寧に説明する。
しかし、少年は動じる様子もなく眉一つ動かさない。
最初は恐怖に身が竦んでいるだけかと思われた。やがて、彼はそうではないことに気付く。
少年は拉致された時から一度も恐怖の色をたたえたことがなく、命乞いをすることも無かった。
「なぜそんなに平然としていられる? これから身に起こることに恐怖を感じないのか?」
「あなたがどうして僕を殺そうとするのかは分からない。でも、あなたは僕を殺すことはできない」
「ほう、根拠は何だ?」
「ただ、分かるんだ。僕にはなぜか結末がわかる。あなたは失敗する。30分後、僕はこの家を無傷で出ていく。」
「洞察としての直感か?」
「僕には守護者がついてるんだ。あなたは彼らに勝てない。あなたの後ろにいる人たちも」
アレハンドロは鼻を鳴らすと、黒いローブを身に纏い深くフードを被った。
それから死者の日の仮装に用いられる、骸骨を模したカラベラの面を被る。
「守護者を守る守護者か。では、どうなるか結末を見てみよう」
アレハンドロはビデオカメラの録画スイッチを押すと、少年の裸の胸部に鋭利なナイフを押し当てた。
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