メキシコ 国境の都市 シウダー・ファレス

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瞬間、鋭い破壊音とともに寝室の扉が蹴り破られた。 アレハンドロが振り返ると同時に、侵入者の構えたジグ・ザウエルが赤い火を噴く。 握りしめたナイフが吹き飛ばされて、アレハンドロは床に転がった。 侵入者の顔を確認しようと身を起こすと、見覚えのない金髪の青年が飛び掛かってくるのが見える。 青年は一呼吸の間も与えずアレハンドロを押し倒すと、喉元にジグ・ザウエルを押し当てて彼の動きを封じた。 全てはほんの一瞬の出来事だった。 「ビンゴ―!! やっぱり俺の推理通りだぜ、ビクトリア!」 「いきなりぶっ放すんじゃないわよ! この馬鹿! ジョルディがびっくりするじゃない」 遅れてもう一人の侵入者が現れる。 それは、先ほどアレハンドロが診察した若い女だった。 女はジョルディの手足の拘束を解きながら悪態をつく。 「決定的な仕事をしたのは私だよ、ダニー。そいつの刺青を確認したのは私なんだから」 アレハンドロは視線だけを動かして胸元を確認する。 診察室で女に破かれて開いたワイシャツから、蝙蝠の羽を開いて(ひざまづ)く悪魔の刺青がのぞいていた。 「お前たちは何者だ? 暗殺者(シカリオ)か?」 「俺たちは役立たずの警察に代わって、悪人に裁きを下す善良な自警団だよ。サイコ野郎」 ダニーと呼ばれた青年がジグ・ザウエルをさらに突き上げ、アレハンドロはさらに後方にのけ反った。 「ジョルディは救出したわ。さっさと済ませな、ダニー」 「まあ、そう焦りなさんなって。さて、イカれた先生よ。俺たちは自警団でもあり、優秀な探偵だ。お前が変な宗教に入れ込んでるのは見抜いてる。もう一人標的がいるよな? そいつはどこの誰だ? そしてお前らの真の目的は何だ?」 アレハンドロはダニーの目を静かに見返す。 任務に失敗したのは無念だが、死に対する恐怖など微塵も無かった。 「北にいるよ。その子は」 「へ?」 突然、ジョルディの声が響いてダニーが振り返る。 ビクトリアに抱き留められた少年はさらに続ける。 「ずっと北にいる。その子は一番重要な子供。そして危険が迫ってる」 アレハンドロはジョルディに視線を移すと、目を見開く。 少年の告げる言葉は直感によるものだろう。だが、それが真実であることを何故か確信できた。 「ジョルディ、その子がどこにいるのかわかるの?」 ビクトリアがジョルディの前に屈みこむ。 ジョルディは頷くと、さらに続ける。 「助けに行かなくちゃいけない。すぐに国境を超えて、北へ行かなくちゃ」 ビクトリアとダニーが唖然として顔を見合わす。そして二人の言葉は見事にシンクロした。 「国境を超えてアメリカに!?」
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