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廃墟
私たちを乗せたタクシーは、市の中心部を後にすると、住宅街を抜けてさらに東に向かう。
追っ手の車が無いか注意深く後方を窺ったが、私たちを追跡する影は見当たらなかった。
すぐに民家はまばらになり山裾に至る。
深緑に彩られた木々の間を抜けて、タクシーはさらに奥へと進んでいく。
緩やかなカーブを上がってしばらく行くと、右手に目当ての祖猿湖が見えた。
私たちはタクシーを降りると、周囲を見回した。
すっかり深い杉林に囲まれて、目に見える範囲に民家の形跡は見当たらない。
日が傾いて西の森の中へ沈もうとしていた。
祖猿湖の水面に赤い光が差して砕ける。
「暗くなる前に見つけ出すぞ。急ごう」
右京がさらに東へと足を踏み出す。私も右京の後に続く。
車道に沿って祖猿湖の北側を三分の二ほど歩くと、左の木々の隙間に車一台が通れるほどの急な上り坂が続く山道が見えた。
私たちは導かれるように山道へと分け入る。
こんなことなら、懐中電灯を準備してくればよかった。何か武器になるようなものも。
両側に暗い杉林の壁を配した勾配のきつい山道を、紆余曲折しながら無言で進んでいく。
息切れがして両膝に手をつこうとしたとき、先を行く右京の興奮する声が聞こえた。
「見つけたぞ! 民家発見!」
私は急いで右京に駆け寄る。すると、山道の右奥の切り開かれた土地の上に古い洋館がひっそり建っているのが見えた。
「うへぇ、こんなところに本当に家があったんだね」
私は感嘆の溜息を洩らした。
しかし、洋館に近づくにつれ異様な違和感にとらわれる。
建物の周囲は伸び放題の雑草に荒らされ、壁のペンキはすっかりと剥げ落ちて変色している。
鉄の扉と窓枠は錆びて赤くなり、窓ガラスは割れて無くなっていた。
どう見ても、打ち捨てられた廃屋だった。
せっかく急な勾配を上ってきたのが徒労だったことを理解して、私は落胆した。
「ここじゃないみたいね。日も暮れそうだし出直す?」
「いや、せっかくきたんだ。少し覗いていこう」
そう言って窓枠に手をかけると、右京は気味が悪い薄闇の中にあっとう間に踏み込んでいった。
「マジっすか……」
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