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私も渋々後に続く。
屋内はさらに悲惨な状況だった。
壁紙は所々剥がれ、傷んだ家具やソファが打ち捨てられている。木目の床板には埃が降り積もり、そこかしこの靴跡を際立たせていた。
靴跡!!
そこには明らかに靴跡が残っていた。
見たところ、まだ比較的新しいように見える。
サイズから見て大人の男性のものとみて間違いない。
肝試しに来た中高生か、訪れた廃墟マニアがつけたものか。それとも……。
靴跡を辿ると、それは奥の廊下へと続いていた。
光の届かない廊下の先に立ち尽くす右京の背中が見えて、私はゾッとした。
近寄ると、右京の足元の床面に四角く切り取られたような跡が見える。
「こ、これって、扉じゃない?」
右京が徐に懐からマッチを取り出す。先ほどの喫茶店から持ち出したらしい。
マッチを擦ると、仄かな明かりに照らされて銀色に光る半回転の取手が見えた。
「やっぱりそうよ。この下に地下室があるんだ…」
私は興奮して、右京の袖口を掴む。
鼓動が早くなる。すぐに開けて中を確認しないと……
しかし、右京は立ち尽くしたまま行動に出る気配がない。そして、その口が徐に開く。
「瑞希、今になって気づいたんだが…、何かおかしいと思わないか。あまりにも出来すぎてる。犯人はどうして喫茶店に警告の電話をかけてきたんだ? しかもお前の名前を告げて。あの電話…、あの警告がなければ俺たちは犯人の確証が得られなかった。望月先生にしてみれば自分が犯人だと名乗ってるようなもんだ。なのに、どうしてわざわざそんな事をする?」
「焦ってたんでしょ? 単純に」
「何かがおかしいよ。俺たちは自分の意志でここまで来たんじゃないかもしれない。まるで、操られて誘導されたみたいだ……」
私には右京の言葉の意味が分からなかった。
ただ、いつになく弱気の右京を見て、自分が奮起しないといけない気がした。
私は右京からマッチ箱を引き取る。
「わかった。右京はそこで待ってて。私が中を確認する」
「だめだ、瑞希、その扉は開けちゃいけない…」
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