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「数千もの大艦隊が弓型陣の配置を組んで、この地球に迫っている。彼ら、ここでは神々と呼ぼう。神々がなぜ地球侵略の旅に乗り出したのかは不明だ。新たな植民地として地球を開拓しようとしているのか、あるいは他文明との星間戦争に敗れて地球に落ち延びようとしているのか。詳しい理由は語られていない。分かっていることは、神々が地球に狙いを定めたこと、すでに量子レベルの探査機を使って地球の状況を調べ上げていること」
「あの…、言ってる意味がよく分からないんですけど…?」
「まあ、黙って聞くんだ。神々は30年後にこの地に到達する。我々には想像もつかないくらい高度に発達した文明だ。神々は得られた地球の情報から詳細なシュミレーションを行った。30年後の侵略戦争の行く末を占ったんだ。結果は…、99%の確率で、侵略を開始してから三日以内に地球は陥落し、地球人類は滅亡する」
「付き合い切れないんですけど。ちょっと、右京も何か言いなよ!」
私はうんざりして右京を見やる。ところが、彼は真剣な表情で実田を睨みつけたままだ。
「しかし、残りの1%の確率が示す事態とは? 驚くべきことに神々は敗退する。地球侵略戦争に失敗し宇宙の彼方へ逃げ帰ることになる。彼らはこのシュミレーション結果に驚愕した。そしてすぐに侵略が失敗する可能性について徹底的に調べることにした。ところで、君はカオスを知っているか? 決定論的に発展する系にも関わらず、初期条件のほんのわずかの誤差により結果が予想もしなかった状況に発展する方程式や力学系を扱う分野だ。シュミレーションの状況はまさにこのカオスを反映していた。神々はカオスを生み出す初期条件の誤差について詳しく調べてみた。そして驚くべき事実を発見する。原因はたった四人の人類だった」
「四人? 四人ってもしかして…」
思いもせぬキーワードが出て、私はつい興味を惹かれてしまった。
「世界中の別々の場所で生まれたこの四人の人間は、恐ろしいほどの千里眼と洞察力を秘めていた。この者たちの登場によって、30年の内に人類世界は驚くべき技術発展を成し遂げる可能性があった。それは、神々の堅牢な防波シールドを突破し、艦隊に風穴をあけるほどの爆発的な軍事技術革新だった。神々は今のうちにこの四人の人類を排除する必要性に迫られた。彼らの技術は、地球までの膨大な距離を通信探査できるレベルにはあったが、直接的な攻撃を施せるほどには熟していなかった。そこで、彼らは地球上のある組織に目を付けた。その組織の中心教義では、人類世界の滅亡こそが本当の救済の道だと説いていた。もう、お分かりだね?」
「シオルーン秘密協会……」
「その通り。神々は宇宙の彼方から、秘密協会の中枢を担うある男にコンタクトをとった。その男は自ら1800年代の有名な厭世的哲学者の名を名乗っていた。ショウペンハウアーと。神々はこの男に、望み通り30年後、地球から人類文明を一掃することを約束した。そのために、今すぐ四人の人間を抹殺してほしいと」
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