神々の困惑

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「それって、メールかなんかで依頼するの? そんな話をすぐに信じた訳? だとしたらよっぽどめでたいわね、そのショウベン何とかってのは」 「もちろん、ショウペンハウアーも、その他の信者も、誰かの手の込んだいたずらとしてまともに取り合わなかった。だが、新たなメッセージの内容を見て驚愕した。神々は自分たちの存在を証明するために、あるものを送りつけたんだ」 窓際で望月先生が、ククク…と忍び笑いを漏らす。私はなぜかすごく不快な気分だった。 「それは数学上の超難問、“ゴールバッハ予想”を証明する膨大な論文だった。協会の人間たちは動揺した。彼らにはその論文の真偽を確かめるだけの専門的知識が不足していたのだ。そこでショーペンハウアーは匿名でその論文を、権威ある学術雑誌に投稿することにした。結果は驚くべきものだった。匿名にもかかわらず、その論文はすぐに査読へ通された。人類には未知の斬新な数学的手法を駆使したその論文に、数学界は色めき立ち、大混乱に陥った。そして秘密協会の人間たちは確信する。何か未知なる知性が本当に存在し、この地球に向かっていることを」 「それで秘密協会の信者が暗殺者となって、スロベニアの少女を襲い、望月先生が清信君を誘拐したっていうわけ?」 私には信じがたい話だった。とても受け入れられない突拍子もない話だ。 右京の反応を窺うが、相変わらず無言で饒舌な実田を睨めつけている。 「神々は最初にターゲットの位置情報と象徴的な役割を協会に与える。つまり魔法、知性、洞察、槍だ。秘密協会の信者たちはいつからかターゲットをこう呼ぶようになった。神々の計画を阻む忌まわしき“ホルスの守護者”たちと。協会の中に裏切者がいて、ターゲットを隠してしまわないことを確認してから、神々は最後の情報を送信する。ターゲットの画像データだ」 「ちょっと、ストップ! 現実感が無さ過ぎてついていけないわ!」 私はいい加減耐えられなくなった。そんな話をどうやって信じろというのか。 実田は薄く笑ってから、二本目の煙草に火をつける。 「信じられないか? 今の話が」 「当たり前でしょう。まるで出来の悪いSF小説みたい」 「そう、まさに小説だ。今の話は全て小説の中の出来事なんだ」 「はあぁぁ!?」
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