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厄介なこと
私はいよいよ混乱する。さっきまでの長ったらしい話が全部小説?
「どういうこと? シオルーン協会は存在するし、スロベニアの少女は殺されたし、清信君も誘拐されたじゃない! 宇宙人の部分だけが空想ってこと!?」
「いや、すべて空想だ。シオルーン協会もスロベニアの天才少女もこの世に存在しない。地球に向かっている異星人もただの空想の産物だ。実際に起こったのは、清信君が誘拐されたことだけなんだよ」
私は繋がれていない左手で頭を抱えた。
実田の話は信用ならない。どこまでが真実で、どこまでが嘘なのか。
右京に何か言ってほしかった。が、彼は相変わらず言葉を発しようとしない。
実田が徐に持参した鞄を漁ると、分厚いコピー用紙の束を取り出した
それから私に近づいて、左手の上にそれを乗せる。読んでみろ、と言わんばかりに。
手渡されたのは、どうやら印刷された小説原稿だった。
最初のページの一行目には、“スロベニア 首都 リュブリャナ”とある。
私は急いでページを繰る。その内容に唖然とした。
最初の章は、喫茶店で実田から聴取した内容と酷似していた、というかそのもだった。
ニーナ・ガロアという天才少女が、ホテルマンに扮した何者かによって惨殺されるシーンから物語は幕を開けた。
次の章の舞台は、メキシコにあるアメリカとの国境の都市、シウダー・ファレスだった。
診療所の医師によって誘拐された少年を、二人組の男女が救出するという流れだ。
その後、ダニーとビクトリアの若い二人は救出した少年ジョルディを連れて、国境を超える。
もう一人のホルスの守護者、“槍”を司る最重要人物を救うために。
彼らはアメリカ東海岸の都市、ボストンへ向かって壮大な旅に出る。
そこまで読んで、私は中盤を一気に読み飛ばした。
そして、最後の数ページを確認する。
どうやら物語の最後の舞台はルーマニアのようだ。
地球が異星人による侵略の危機に晒されていると知った主人公たちは、シオルーン秘密協会の本部へと乗り込む。
そこには“知性”を司る数学の天才少年が幽閉されている。
そして、悪の枢軸、ショーペンハウアーとの最後の戦いに挑む……
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