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「素数が現れる間隔だ。瑞希も素数くらいは知ってるだろ? 1とその数でしか割り切れない数字。別名、数の原子ともいう。素数を順番に挙げてごらん。2,3,5,7,11,13,17,19……。ちょうどタイルに記された×と同じ間隔で出現してる。つまり、×が記されているタイルは素数を表してるんだよ」
「や、やるじゃない、不細工のくせに。では、誰が何のために、わざわざこんな手の込んだことをしているの?」
「その答えは簡単さ。素数の出現間隔ってのは、暗号のお遊びみたいなもんだ。どうせ、いたずら好きの中学生が、一覧表片手に×をつけていったのさ。秘密の暗号を作成した気分になってね」
そう言うと、右京は拍子抜けしたように、さっさと先に行ってしまった。
悔しいが、右京は不真面目なくせに、私よりはるかに物知りだった。
納得がいかない私は、またも右京に追いすがる。
「じゃあ、素数が出現する間隔について説明してみてよ。どうして毎回2じゃないの? なんで、ちょくちょく2とか6を挟んでるわけ?」
「その質問には答えられないよ。素数の性質はいまだに十分には理解されてない。特に素数が出現する規則については、まだまだ謎だらけだ。一見ランダムに見える素数の出現間隔に規則性があるのか? それは今も数学界の最大のミステリーだ。そしてもう一つ。とても重要なことがある」
突然、足を止めた右京が振り返り、私の鼻先に人差し指を突きつける。
「俺は不細工ではない」
「あっ、何あれ?」
私が指したその先を、右京が再び振り返る。
そこは、細い歩行路の先にある開けた石畳の広場だった。
そして、石畳には不規則な赤いまだら模様が描かれているように見えた。
私たちは急いで広場まで駆け寄って確認する。
案の定、赤いまだらに見えた模様は×印の羅列だった。
先ほどまでの一列上に不規則に配列された印と異なり、今度の×は二次元の平面上に拡がっている。
格子状に並んだ石のマス目に不規則に記された赤い印。
これらによって、広場は一枚の不気味なモザイク画と化していた。
そのモザイクは、規則性があるようにも、ないようにも見て取れる。
「昨日まではこんなもの無かった。これも暗号よね? この絵は何を示しているの?」
右京が頭をかく。
「こいつは……、お手上げだ」
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