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望月先生は私たちに構わず、先を続ける。
「中華料理屋でゴールドバッハ予想の話をしていたサラリーマンがいただろう? あれは刑事だ。まあ、あまり意味は無かったが。それから、分かりやすく行方不明者のポスターを掲示しておいたのもワザとだ。それから、清信君のお父さんにも協力してもらった。奴が最初に捜索する可能性が最も高いのは、被害者の自宅だからな。清信君のスケッチの中に、悪魔の絵を差し込ませてもらい、容易に発見できるようにした。それから、実田刑事に奴との接触を依頼した…、もう分かるな、実田刑事には小説に出てくる架空の秘密教団の話を奴に吹き込んでもらった。それから……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。どいうこと? それって私たちが経験してきた話じゃない?」
望月先生は私の戸惑いを歯牙にもかけない。
「悪魔のスケッチを発見した後、奴が向かう先は見当がついた。俺は市内のタトゥースタジオの一つに、胸に四つの刺青を配した写真を置かせてもらった」
「じゃ、じゃあ、あの刺青は全部、偽物?」
「ああ、全部シールだよ。俺の体に張り付けた。ただ、刺青屋の店主には詳細を言ってなかったから、お前たちが訪れた後、えらい動揺してたけどな」
「スロベニアの記事は? そ、そうよ、私たちは天才少女が殺害された記事を見たわ!」
横から実田が口を挟む。
「あれは、全く関係の無い記事の切り抜きだ。スロベニア語で書かれているから、内容を把握しようともしなかったろう? 当然、手の甲に悪魔の刺青を掘った狂信者もでっちあげだ」
私は戦慄する。
「ど、どうして? どうしてそんなことをしたの?」
再び、望月先生が引き取る。
「言っただろう。小説の世界を再現するためだ。園田は小説の世界で推理を重ねながら、真相に到達する。それが奴の深層心理の願望だからだ。だから、俺たちはキーワードを与え続けた。園田が小説の世界に没頭できるように。予想通り、無意識の内に奴はどんどん辻褄合わせをした。無意識の内に清信君の居場所にどんどん近づいていった」
「瑞希、耳を貸すなよ。こいつは俺たちを惑わそうとしている。こいつらのやり口なんだ。人を惑わせて陥れるのが、シオルーン教団の手口なんだよ」
右京が望月先生を睨みつける。その視線はまるで獣のように鋭かった。
右京のこんな視線を見たことは、ただの一度も無かった。
もう私には、異常なのが、望月先生か右京なのか確信が持てなくなっていた。
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