意外な犯人

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意外な犯人

それから数日後、石畳の印は綺麗に姿を消していた。 恐らく街の清掃業者によって一掃されたのだろう。 だが翌日、広間に再び謎の模様が現れていた。 今度は赤一色ではなく複数の色を使い分けて、広間の石畳一面が塗りつぶされていた。 一見、何の規則性もない色鮮やかなモザイクにしか見えない。 しかし、いまや私たちには、何らかのパターンが存在していることに疑いの余地は無かった。 それから、さらに数日が経ったある朝。 右京は相変わらず遅刻のようだった。 一人で大学へと続く例の歩行路を歩いていると、眼下に再び赤い×印が記されているのが目に留まった。 石畳の×印は以前よりはるかに延長され、いまや点字状の長い中央線となって歩行路を縦断していた。 延長された×印にそって歩を進めると、そこに意外な光景が現れて私はギョッとした。 そこには、しゃがみこんで石畳に赤いクレヨンで×印を書きつける人物がいた。 あまりにも予想外の光景に声を失う。 それは、幼い少年だった。 おかっぱ頭に、青白い肌。恐らく小学校の低学年だろう。 少年は何事かぶつぶつとつぶやきながら、次々に石のタイルを×で塗りつぶしていく。 まるで、どのタイルに印をつければいいのか知っているかのような、滑らかな所作だった。 「こ、こんにちは…。君は何をしているのかな…?」 少年が振り返る。 その表情からは何も読み取れない。私はゴクリと唾を飲み込む。 二人で見つめ合う無言の時間がしばらく流れたのち、少年は何事も無かったかのように再び背を向けると、また何事かつぶやき、作業に戻り始めた。 「お、おっ……。そういう系なのね」 私は気を取り直して少年の傍まで近づくと、隣にしゃがみこんだ。
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