意外な犯人

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「すごいね。これ、素数だよね。素数が現れる順番にそって印をつけてるんでしょ? あの向こうの広場の派手なモザイク、あれも君が書いたのかな?」 少年は私の言葉に耳も貸さず、黙々と作業に打ち込んでいる。 「ねえ、君はみたところ、まだ小学校の低学年だよね。どうして素数のことを知ってるの? それに、どうして、こうやって素数に対応するタイルに印をつけているの?」 「パターンを探してるんだ。素数や無理数の配列の中にあるはずの一定のパターン。自分でもよくわからない。でも、それを見つけることがすごく大切な気がするんだ」 「す、す、すごいね。なんだか、人間的にも負けた気分になったわ……」 あまりに大人びた少年の物言いにあっけにとられていると、再び少年が私を見返した。 じっと私を凝視している。正確には私の顔ではない。どうやら、首筋のようだ。 「絵がないんだね」 「えっ、絵? 何のことかな」 少年は質問には答えず、代わりに自分の首元を指し示す。 「首に絵が描かれている人が来たの?」 少年は無言で頷く。 その瞳には、明らかに怯えの色が滲んでいた。 「その人には、どんな絵が描かれてあった?」 「たぶん…、悪魔」 「その人は君の知らない人?」 少年がさらに無言で頷く。 「君はすっごく怖がっているように見えるよ。原因はその人?」 また、無言の頷き。 「その人と何かお話をしたのかな?」 「少しだけ。僕のことを“ほるすのしゅごしゃ”かって聞いてきた。なんだか、すごく嬉しそうに笑ってた。でも…、なんとなく、その顔がすごく怖かったんだ……」 私がさらに追求しようとすると、弾かれたように少年は立ち上がり、無言で走り去ってしまった。 「ちょっと、おーい、少年、待ってよ…」 遠ざかる少年の背中を見つめながら私は溜息をついた。
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