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「あんな小さい子供だったなんて驚きだな」
突然、背後から声がして私は心臓が止まりそうになった。
振り返ると、涼しい顔をして右京が立っていた。
「ちょっと、いたんなら声くらいかけなさいよ。覗き趣味でもあるわけ?」
「あんな小さな子供なんだ。大人二人に挟まれたら、萎縮して何もしゃべれないだろ?」
それから右京は、私の存在を無視するかのように歩行路の印に注意を向ける。
「見ろよ、×印の数はこれで約200個だ。200個だとして、200番目の素数は何になると思う? 1223だ。さて、瑞希には4桁の数字が素数かどうかを暗算で判定できる? できないだろうな」
「それ、ハラスメントですよ」
「実は4桁の素数判定は、暗算でもそんなに難しいことじゃない。1の桁が0と5の時は当然として、詳細は省くけど、あるアルゴリズムに沿って素因数分解を試みれば、素数判定は比較的容易だ。でも一つ条件がある。アルゴリズムを適応するための時間がいるってことだ。訓練をすれば素早く暗算できるようにはなるだろう。でも計算の時間をゼロにはできない」
「何がいいたいわけ?」
「あの子の動きを見ただろ? まるで、どのタイルに印をつければいいのか、あらかじめ知ってるかのような動きだった。そんな芸当ができる理由は三つしかない。一つは、超高速で素数判定のアルゴリズムを暗算している可能性。もう一つは、4桁を超える素数をすべて暗記している可能性。そして、もう一つは……」
「もう一つは?」
「どのタイルに印をつければいいのか…なぜか本当に、あらかじめ知っている可能性。」
私の胸がざわつく。
右京は頭をかいて、溜息をついた。
「とにかく、とんでもない天才だよ。あの子は」
しばらく呆然と石畳のモザイクパターンを見つめていると、いつの間にか自転車に跨った警察官が近づいて私たちに並んだ。
涙ぼくろが目立つ、年かさの警察官が溜息をつく。
「ほんと多いんだよな、こういう悪戯。モダンアートっていうの? 今朝から苦情の電話が鳴りやまなくてうんざりだよ。」
私は何となく、その警官に警告することにした。
「この辺りに怪しい人物がいるかもしれないです。そいつは、たぶん……、首に悪魔の刺青をしていると思います」
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