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二階の男
暗い部屋の中で、ノートパソコンの液晶ディスプレイだけが青白い光を放っていた。
俺は画面に映し出されたメールの通知を無言で見つめる。
メッセージは全て英語で書かれていた。
表示された送信元に“ショーペン・ハウウェル”の文字が浮かぶ。
『同志たちよ。神託が下った。二人目の守護者の情報だ。役割は“知性”。それ以上はまだ不明だ』
メールに添付されたフォルダを開錠する。
テキストファイルには七行の数列が記されていた。
地図アプリを開いて数値情報を順次入力していく。
入力された七つの位置座標データを基に、世界地図は急速にズームアップして、日本の特定のエリアを指し示す。
指定されたエリアは、俺の良く知っている土地だった。
***
とうに住民たちが寝静まった住宅街。
俺は何の変哲もない一軒家を見上げた。二階の窓から蛍光灯の光が漏れている。
周囲を窺ってから、インターホンも鳴らさず庭先に侵入すると、俺は素早く二階のバルコニーに降り立った。
鍵のかかっていないガラス戸を開けると、咽かえるような異臭がして俺は顔をしかめた。
ゴミや書籍が散乱した部屋の片隅に、膝を抱えて座り込む園田歌男の姿があった。
その眼は虚ろで、俺が部屋に入ってきたことにさえ気づいていない様子だ。
園田を無視して部屋を見回す。本棚からあふれ出して、積み重なった漫画本の中に、数冊の哲学書や数理科学の専門書が見える。
散らかった机の上に置かれたノートパソコン。そして重ねられた数十枚のコピー用紙の束。
俺はコピー用紙を手に取る。
それは園田によって書かれた小説の原稿らしきものだった。
パラパラと原稿をめくって内容を確認すると、俺は園田の前にしゃがみこんだ
。
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