くもり

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

くもり

小学4年生の時、おっちゃんが死んだ。 私はおっちゃんが大好きだった。 身近な人が病に伏せることなど幼い私には経験が無く、勿論「死」がどんなものなのかなんて分かる筈もなかった。 ある日曜日の朝、いつもはお母さんの入れる珈琲とトーストの焼けた匂いで目を覚ますのだが、その日は昼過ぎに自然に目が覚めるまで眠っていた。 「あれ、お母さんは?」 リビングに向かうとお母さんの代わりに普段は仕事で居ないお父さんが待っていた。 その隣に難しい顔をしたお兄ちゃんが座っていて、テーブルには手付かずのスティックパンの袋が置かれていた。 「お母さんな、今病院に行っとるねん。」 理解が出来なかった。 お父さんの話によるとお母さんのお兄ちゃん、おっちゃんが倒れて運ばれたとのこと。 「やから今日は皆んなで病院行くで。」 結局私達はこのモヤモヤふわふわした空気感に包まれたまま、誰もスティックパンに手を伸ばすことはなかった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!