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『ある日、栗林で親切なクマさんに出会いました』
その喫茶に入った人は、口を揃えてそう言った。
思えば私達の結婚も、その親切なクマのおかげかもしれない。
私には愛がない。
家は花が飾られ、
美味しいご飯もある。
結婚相手への情もある。
しかし愛はない。
それは何一つ悲しいことではない。
望んだ穏やかな幸せで帰りたい家。
なのに、心の隅ではいつもどこか不安で孤独を望んでいた。
「いざ、尋常に勝負!」
「「ジャンケン……ポン」」
両親と親戚の強い強い勧めでお見合いをした。
第一印象が結婚観が合う人で人畜無害そう。
だから結婚した。
見合いの席で、私はあらかじめ用意しておいた契約書にサインを要求した。
「ヨッシャー! 風呂掃除よろしく〜」
「今日で14連敗。二週間連続。彩果さん強すぎ」
結婚して、どうでも良い日常が楽しくなったのは認める。
生活も少しは楽になった。
特に家事。特に風呂掃除。
生活の質も上った気がする。
なにせ玄関を開けたら、花の香りがする家になったのだから。
食材の匂いに慣れた鼻に、甘い香りが緊張を解す。
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