喫茶 森の貝殻のランチ

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一年も花のある暮らしをしていると、香りを感じるのが帰宅したときくらいになる。 私の服にもきっと、花の香りが染み付いているだろう。 今日、仕事場に行ったとき、マスターに花の香りがすると言われた。 着ていたカーディガンに鼻をつけて嗅いだところで、私には分からない。 自分には分からないくらい染み付いているみたいだ。 まとう香りの変化にしみじみと実感する。 鼻は匂いに慣れたけれど、生花の香りを身にまとっているという事実は、いまだに心をムズムズとくすぐる。 私は心のざわめきをみじろぐことで、やり過ごし知らないフリをする。 🌻始まりの10月 ダリアとクラムチャウダー 人畜無害な夫のいおり君は、毎日恒例の風呂掃除ジャンケンに負けて膝から崩れ落ちていた。 「高松一ジャンケンの強い私に、勝とうだなんて百年早い」 私はふんぞり返って良い気になっていたのに、足元で黒色のナニモノかがテーブルの下へ走り去った。 「ぎゃっ、ゴキブリぃぃ!」 その場から飛びのく。 こういう時、結婚していて良かったと思う。 だって、虫の処理にも困らない。
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