喫茶 森の貝殻のランチ

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崩れ落ちていたいおり君の方へ、ちょうどゴキブリがやってきて、彼はそれを素手で捕まえた。 「強心臓に剛毛生やしてるのに、虫はダメなの可愛いですよね、彩果さんって。彩果さんと結婚出来て幸せだなー」 「いいから、早く外にやって!」 独り身の時には無かったやり取りも楽しいとは思っている。 けれど、やっぱり彼と恋愛をする気が湧かないのは変わらない。 「じゃあ、さっきのジャンケンやり直しにしてくださいね」 「分かったから!」 キッチンの隅に避難して縮こまる。 いおり君がゴキブリを捕まえて外に逃がす音をじっと聞いていた。 ベランダを閉める音を聞いて、安心して食事の準備を始める。 美味しい料理を作るのは好きだ。 相手がいれば張り合いも出る。 張り合いは出るけれど、誰に作っても特別な感情は出ない。 この日の夕飯は、クラムチャウダー。 朝作ったスープには、野菜と魚介の旨味が溶けていた。 焼き立てのタイミングで買ってきたフランスパンと合うはずだ。 数切れ切って、バスケット型の籠に入れる。 クラムチャウダーも貝殻模様の施されたスープ皿に盛り付ける。 あとは、大根やら人参と柿を混ぜ合わせてサラダにした。
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