前編

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前編

 僕と(たもつ)が付き合い始めたのは、昨年の春頃。大学の講義を受けるとき、たまたま保が僕の隣に座ったのがきっかけだった。背が高くて細マッチョで、一重の保にまず僕が一目惚れ。これは運命だと思った僕は、相手がノンケだろうが確認することもなくグイグイ押していった。僕は童顔だし背も低いからよく『草食系男子だ』なんて決めつけられているんだけど、とんでもない。  そしてラッキーだったのは、保もマイノリティーだったこと。しかも僕みたいなのがちょうどタイプだったなんて、本当に神様っているんだと思ったんだ。それまでの僕の恋愛体験はそれは悲惨なものだったから…。まあ、そんなことはどうでも良いのだけど。  そして一年経った今。僕らはお互い一人暮らし。大学が終われば、どちらかの部屋へ行って、ゲームをしたりご飯を食べたり。週末はたまに泊まったりしてラブラブだ。ただ一つだけ、困ったことがある。  僕らはいわゆる『苦学生』だ。親の仕送りをアテにして遊び惚けるようなパリピなやつらと違って、お互いバイトを常に掛け持ちして、それでも毎月ギリギリで暮らしている。そんなに遊んでもないのに、なぜか二人とも金がない。保は引越し屋のバイトとコンビニ店員を、僕はカラオケ店員と、宅配便の仕分け業務のバイトを掛け持ちしている。  いつも僕らの合言葉は『金が欲しいなあ』。それでも笑って過ごすことができているのは、保がいるからだと思っている。  僕は肩に掲げていたトートバックをドサッとテーブルに置き、冷蔵庫から麦茶を取り出した。初夏の筈なのに、何だろうこの暑さ。コップに冷えた麦茶を勢いよく注いで、それを一気に飲み干す。 「あっちーなあ。もう真夏みたいだ」 「全くだな。これからもっと暑くになるって、どんだけ暑くなるんだよ」  うちわで自分を仰ぎながら、保はテーブルに置いた僕のトートバックを見た。デザインがかっこいいトートバックだけど、毎日これを使うものだから、クタクタになってしまっている。 「だいぶ汚くなったな、それ」 「うん、でもお気に入りだからねえ」  コップをテーブルに置き、大きく背伸びすると、保がツツツ、と寄ってきた。顔を近づけてくるので、僕はピーンと来た。そう言えば、先週は僕がバイトのシフトがキツくてエッチしてなかったっけ……。 「保、もしかしたらシたいの?」  僕は半分ふざけながらそう聞くと、保はニヤリと笑って僕の頰にキスをする。 「信一不足だもん。補充しないと、この暑さにやられちゃうよ」 「は……、あッ、そこ……、イイ……」  あっという間に二人裸になって、足を絡める。お互いのモノを扱き合いながら、この狭い保の部屋で愛し合う。保の手はバイトで豆ができたりしていてゴツゴツしている。その手が男らしくて大好きなのだけど、その手で扱かれると、一人でやるときの数倍も気持ちいいんだ。僕が一度イくと、保は耳たぶを舐めながら今度は後ろを弄り始めた。  一年たつとお互いにイイ場所が分かってくるものだ。あっという間に指を増やし、前立腺を刺激されて、僕は隣の部屋に聞こえるんじゃないかと言うくらい、声を出してしまう。 「信一、声、抑えて……」 「む、りッ……ひああッ」  何の前触れもなく、保のソレが侵入してくる。挿れる時は言えって、前からあれだけ言ってんのに! どうやら保はわざとやっているらしい。 「あ……気持ちイイ……」  腰を動かしながら保は汗を僕の背中に落とす。そして僕も顎から汗が落ちる。気持ちいい、気持ちいいんだけど…… 「ああっ、も、イっちゃう……ッ!」  ぼたぼたと落ちる汗。保も切なそうな声をしながら、頂点まであと少し。当たる太ももが汗でぐちょぐちょだ。そしてもう我慢ができなくなって、お互いに大きく背中を逸らして思いっきり白濁したソレを飛ばすと…… 「あっつーーーー!」  ベッドに伏せながら気持ちよさと暑さで、意識が朦朧としてきた。そう、保の部屋にはエアコンが無い。僕の部屋も当然、無い。だから、夏場のエッチが死活問題なのだ。昨年も暑さでヒイヒイっていた。今年は昨年以上に暑い気がする。これから先、どうするんだ? 「あれ、保。宝くじ買ったの?」  別の日。今度は僕の部屋で夕飯の素麺を二人で食べ終わったあと、保が手にしていたのを見て僕はそう言った。保が宝くじを買うのは珍しい。くじを買う金があったら食べるものを買う、って前言っていたのに。 「うん。バイト先の先輩がさ、この前当たったらしいんだ。って言っても五万円だったらしいんだけど」 「え、でも五万円って大きいね」 「そうそう。俺らにとっちゃ大きいだろ。だからもしかして、って思ってさ」 「何枚買ったの?」 「三枚」  それを聞いて、僕は思わず声を出して笑ってしまった。たった三枚で当たる訳ないじゃん! 「あ、お前バカにしたなあ。当たっても分けてやらないからな」 「はいはい」  僕はテーブルの食器を片付け始めた。保はスマホで、当選番号を確認しているようだ。その顔がとても真剣で、可愛い。保に背を向けて、さあ洗いますかと蛇口をひねった時… 「わあ! やべえ!」  突然、保が大声を出したので僕はびっくりして振り向いた。 「どしたの」 「あ、当たってる! 信一、これちょっと見てくれ」  スマホと一枚の宝くじを僕に渡して来た。その手が震えていたので、何を大げさな、とため息をついてスマホの画面を確認すると……見事に組と数字が一致していた。え、本当に? たった三枚で当たっちゃうものなの?  僕は驚きつつもいくら当たったんだろうと、また画面を見てみると…… 「ヒャ、百万円って!」  保以上の大声を出し、危うくスマホ落としそうになった。
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