Snowtime

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 珍しく数年ぶりに降った雪により白くお色直しした、電灯が少ない公園。人気がない上にほとんど真っ暗だけど、自宅までの近道だからいつも通っている道で、上司との飲み会帰りの僕はベンチに鎮座する大きな雪だるまに出会った。  ロングコートにマフラーと凄い厚着をしている雪だるまの頭上には、真っ赤な帽子。それもただの赤い帽子じゃなく、煙突の様に上に伸びている…そう、例えるにしてもシルクハット以外思い付かない。電灯の冷たい白光りの中でも目立つ情熱の色は、アルコールで浮わついた人間を立ち止まらせるには充分だった。  赤いシルクハットを被った…人、だろうか?…は、ダークカラーのマフラーやコートのウール地を雪で白く染めながらも、微動だにすることなくベンチに鎮座している。そのあまりに静寂な佇まいは、とても生き物だとは思えない。  どこかでこんなのを見たことがあるような、と思案に耽った末に思い出したのは、子供の時に読み聞かせてもらった笠地蔵だった。完全にイギリスかぶれしているけど。 「くしゅん!!」 「うわぁあ!!」  くしゃみと共にほっそりとしたIラインのボディが突然揺れだし、シルクハットが大きく前に傾く。毎日ここを通ってる身としては、こんな目立つモニュメントはここには無いと知っている。どう考えても目の前のいるのは人間なはずなのに、突然の生き物らしい行動に思わず絶叫してしまう。 「え?あ…あら…あらごめんなさい、私ったら突然。驚かせちゃったみたいね」  赤と黒の布地の間から、雪の様な白い肌と透き通った瞳がこちらを覗く。発せられた女性の声と同じくらい柔らかなその眼差しに、僕の心は一瞬の内に引き込まれる。そのほんの数センチの素顔は一言にすれば美しいで済むが、その一単語の裏にはとても言葉では表現しきれない要素が詰まっており、僕は生涯一の衝撃にただ棒立ちで見つめることしかできない。  じっと見つめられてることに気付いたのか。それともくしゃみしたことが無性に恥ずかしくなったのか。女性はすぐに帽子を目深に被り、折角開いた花園の口をひしと閉じてしまう。僕は内心しまった、と後悔しつつ女性に失礼を働いたことを詫びる。 「すみません。まさか人がいるとは思わなかったので…その…雪だるま、かと」  きっと気付かれていたであろう気恥ずかしさから、謝るくせに余計な一言で照れ隠ししてしまう。さっきとは別の後悔を抱きつつ女性に詫びると、面白かったのかくつくつと笑っているかのようにシルクハットが揺れだす。
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