Snowtime

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「雪だるま? 私が? …ふふ。そうねぇ…それじゃあ、あなたはトナカイさんといった所かしら」  悪い意味で受け止められずにホッとしつつも、僕の頭の中はトナカイ? とクエスチョンマークで埋め付くされていく。反応に困る僕の姿が面白いのか、雪だるまの彼女は口元にこれまた雪の様に真っ白な手を当ててくすくすと笑いだし、コートのポケットに忍ばせていた手鏡を僕に向けてくる。 「あ…や、これはお恥ずかしい。ち、違うんです。別にこれは酔っぱらいとかじゃなくて!! 確かにお酒は入ってるけどそんなつもりじゃ!!」  先の飲み会で結構飲んだせいか、はたまた寒さでかじかんでしまったのか、絵に描いたような赤ら顔をさらけ出していたこと気付き、僕はウザ絡みやナンパの類いじゃないと言い訳を始める。そんなことは一言も言ってないのに、どうしても彼女に嫌われまいと必死になる僕の慌てように、彼女はまたもうふふと笑いだす。上品な笑い方だけど意外と笑いのツボが浅いのかもしれない。  ナンパじゃないと否定しながらも、僕は半ば強引にベンチに腰をかけ彼女の隣に座る。公園のベンチはそんなに広くなく、あと一歩でも近寄れば肩が触れ合ってしまう距離まで近づいても、彼女は嫌がる素振りを見せず…というより相変わらず目深に被るシルクハットのせいで、彼女の表情を伺い知ることはできなかった。  これだけ近寄っても見えるのはコートの襟の隙間から見える、陰りを帯びても白く輝く白磁の肌だけだった。どこまでも白く透き通るこの人は、真っ赤なシルクハットさえ無ければ雪女と勘違いしてもおかしくはない。それか幽霊…と頭によぎった所で僕は頭を左右に振って冷静さを取り戻す。いくらこの世のものではない美しさといえど、さすがにそれは失礼だ。 「あの…誰かとの待ち合わせですか? ここ、いつも人いないし。 待ち合わせ場所になりそうな目印もないし。それに雪だってこんなに…」  浮わついた感情は無いと弁解しておきながらおもいっきり矛盾している質問に、彼女は避けることなくそうねぇとしばし考え込む。その上を見上げる仕草により、僅かに見えていた首筋がよりその範囲を広げ、僕はたちまちその白さに釘付けになる。  これが一目惚れというものなのだろうか。もっと。衣服をひんむいてでもその素肌の端から端まで見まわしたいという、理性の欠片もない獣の欲に駆られる。きっと雪の、いや寒さのせいだ。こうも寒いと温もりが欲しくなるものだ。身も心も。
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