Snowtime

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「んっ…あつい…」 「疼いているの、僕も感じます…もうちょっと。あともうちょっとですから…」  何に対しての『あつい』なのか。あともうちょっとで何なのか。互いの発言に抱く疑問も、温もりの前では自然消滅していく。ぼんやりとする意識の中で今僕が思っていることといえば、そういえばポインセチアの花を僕は見たことがないな、という取るに足らないことだった。  彼女の柔肌に熱が灯ると共に、積もった雪が溶けていく。赤々と色付く生命は長い冬を耐えた褒美に春を欲する。降りしきる雨にも負けず、春一番をしっとりと濡らす雪解け水が、春を乞う何よりの証だ。 「あっ…いれちゃ…ダメ…今挿れられたら…溶けちゃ、うぅん!! あ、あとごふん…」 「駄目です…御存じ、でしょう? 春は…待ってはくれないんですよ」  熱中症を患い、限界まで硬さを増した反りが、涼を求めて崩落寸前の氷室に侵入する。あれだけ温もりをその身に受け、それでも尚しぶとく残る薄氷(うすらい)をみちみちと割りながら進む砕氷船に、海は「んひぃいい!!」と矯声を挙げる。  静謐(せいひつ)な彼女からは予想だにしなかった声色に、僕は完全に(とりこ)になり、後先考えず腰を振り始める。暴力的な春暖に冬眠から叩き起こされた雄が咆哮を挙げて、深く積もる名残雪をかいては蹴散らしていく。 「んひゃあぁあ!! あ、きら…アキラさん!! もっと…アキラさん!! もっと、もっと突いてぇえ!!」  粘膜接触によるリスクのことなど元より頭に無い愚かな獣に成り下がった僕は、声なき怒号を挙げながら大地を削っては耕していく。名前も知らない人からこれまた名も知らぬ男の名を聞かされる。そんな人としての礼節に欠ける彼女、否、雌に慈悲など不要。躾の無さを言い訳に、僕は行き過ぎたワンナイトラブを味わい尽くさんとより精を出す。 「わる、いんだ。おまえが…悪いんだ…」 「あひぃい!! そう!! そうよ!! 私が、あぁあ!! 悪かったの!! 許さないで!! アキラさん!! 裏切り者の私をおぉ!! 私を許さないでえぇえ!!」  僕がぱんっぱんっと力強く突く度に、「アキラさん!! アキラさん!!」とのたまう機械に変わってしまった彼女に、僕は頭を冷やさないかとばかりにシャワーの冷水の蛇口を全開する。 「きゃ!! つめたっ…あ…あぁぁぁああひいい!!」  折角暖まった身体に冷たい雨が刺の様に突き刺さり、僕達は反射で背筋を仰け反らせる。急激に萎縮した彼女の秘肉が、僕の肉竿をきゅううと締め上げ意図せずに洞穴の最奥に連れ去っていく。氷室の奥はすでにサウナルームと化しており、ぬちぬちとした肌滑りと共に強烈な爽快感を僕に与えてくる。 「あうっ!! く、くうぅ…こんなの、むり…で、る…」 「まだぁ、溶けたくなひ…とけたく、ないの…にぃ…あ。あぁ!! あぁあああぁぁぁ…」  どれだけ冷水で急冷しても、氷点下を過ぎた室に氷はおろか雪ができることは無い。留まることを知らぬ地熱にすっかりぬるくなった雪解け水に撫でられながら、ずるずると力無く入口に戻っていく蛇は、その腹に詰まった名残雪を置き土産とばかりに吐き出していく。  ぬぽんと栓が引き抜かれると同時に、みぞれがタイルの大地に降り注ぐ。大量の水溜まりと混じりあっては滲んでいくセイを息絶え絶えに見届ける僕達は、冬が終わったことを働かない頭で悟る。  過ぎ去りし冬をもう一度、と浅ましく願ってしまう僕に、春を迎えた彼女は温水の蛇口を捻って、きれいさっぱり洗い流してしまう。  向かい合うも目を合わせず。  そもそも互いの体を預け、寄り添っている僕達が目を合わせられるはずもなく。  優しい春の嵐は営みなんて最初から無かったかのように、跡形も無く消し去っていった。
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