1 幽霊騒動

1/4
前へ
/100ページ
次へ

1 幽霊騒動

 広瀬川に架かる霊屋(おたまや)橋。  仙台の中心部にほど近い市街地の一角にあり、昼間はいろいろな人が行き交うが、夜は川のせせらぎが聞こえる、落ち着いた佇まいの橋だ。  ここに、幽霊が出る、という噂が広がっていた。  その幽霊とは――男、痩せた中年、スーツ姿。何もしゃべらないし、何をするわけでもない。ただ、歩いている人を見ているだけ。しかもその相手は、若い女性。  そこを通る女性たちは不安がった。若くない人も含めて。  そして、ある蒸し暑い夜のこと。  繁華街のアパレルショップで店員をやっている明日香(あすか)が、帰り道の霊屋橋に差しかかった。  幽霊の噂は、明日香の耳にも届いていた。  でも、噂に過ぎないし、襲われたという話でもない。  ま、出てきたら、その時はその時だ――そう思って、遅くにそこを通ることをあまり気にはかけなかった。  今日は星もなくて、いつも以上に暗い。早く帰ってお気に入りのお笑い芸人のビデオでも見よう――そんなことを考えながら、霊屋橋を渡り終えると……後ろに気配を感じた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加